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説明と罰 9
「実はこの度、隣国エターエレン王国第三王女でシュクレーナ女男爵の爵位を得たれミロリエ王女…いえ、ミロリエ女男爵夫人と婚約いたしました」
「ああ、そのようだな」
国王は手にした書類に目を通しつつ、リートリッツの言葉に軽く頷く。
すでにそのことは隣国の王家からも連絡があり、ヴィヴィエト侯爵家からも婚約の承諾は報告されていた。
「シュクレーナ男爵家はミロリエ女男爵の婚姻を持って同母弟君が当主となり、私と共にヴィヴィエト侯爵家を」
「ちょ…ちょ、ちょっとま、待って!待ってください!」
遮ったのはようやく言葉を発せるようになったフォルベリッドだった。
「だって…何で…ヴィ、ヴィヴィエト侯爵家には、後継の男児はいないって……」
「ああ。だから、先代当主の兄の孫を養子にしたのだ」
「な…何で?……」
意味がわからずフォルベリッドは義理の父となるはずのヴィヴィエト侯爵から自分の父へと視線を動かしたが、どうやら理解できていないのは自分だけのようだと、さらに隣に座るエミリーティーヌが浮かべる微笑を見て縋るように視線を元に戻す。
それは忌むべき風習──双生児、あるいはそれ以上の多産は一族が呪われている証拠だという、誤った認識から起こった養子問題だった。
たいていは産まれたどちらかもしくは一人を残して始末されることが当たり前だったが、ヴィヴィエト侯爵家先代当主は三歳まではその存在を他家に隠されて育てられた双生児である。
それは先々代の侯爵夫人がこのお産でかなり衰弱してしまい、次の子供が望めないかもしれないという懸念から、あえてスペアとして二人とも育てようというのがその当時の一族の考えだった。
そして三歳までに双方の能力や知力を比べ、より優秀だと判断された弟の方が本家に残り、兄は先々代の弟へと養子に出されたのである。
つまり──判断が違えば、リートリッツが本家筋として血脈が受け継がれていた可能性もあった。
そのことも踏まえてリートリッツの祖父、両親が相次いで亡くなったことで彼を本家に戻し、王太子と破談になった場合にはアーベルティーヌと、順調に行けばエミリーティーヌとの婚姻も視野に入れていたのである。
だがそのような経緯があったとしても、他の貴族家の事情も絡んでヴィヴィエト侯爵家の闇の部分を公にすることはできなかったため、分家となったリートリッツを養子にする明確な理由として貴族学園成績優秀者としての留学が必要だった。
まさかそこで隣国の王女が決まっていた同国の公爵後継者との婚約を破棄し、レオリース王国の侯爵家の養子と婚約することになろうとは思ってもいなかったが、元よりその婚約は『未婚の王族がいるのは王家として都合が悪い』というだけの、当事者双方にとって政略の意味も成さない不本意なものだったのである。
むしろ産業的発展を得たいレオリース王国と、レオリース王国の先にある国との国交を視野に入れているエターエレン王国は互いに益があると今回の婚約破棄と新たな契約を歓迎していた。
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