納得のち解散 2

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納得のち解散 2

だから──だから、兄が継ぐ伯爵家よりも上位の貴族であるヴィヴィエト侯爵家からの婚約の話が長兄ではなく、次男の自分に来たと教えられた時は正しく天にも昇るような心地だった。 ヴィヴィエト侯爵家には令嬢が二人いること。 上の令嬢はフォルベリッドと同い年だが下の令嬢は三つ下だということ。 上の令嬢は間もなく社交界デビューする令嬢の中でも際立って美しく、下の令嬢はこれから先が楽しみだと言われるほどの美少女だということ。 どうあってもこの話を纏めるべく、フォルベリッドはどちらの令嬢にも(・・・・・・・・)丁寧に、そして紳士的に接すること。 意気込んで臨んだ顔合わせの日──目も心も、可愛らしすぎる天使に奪われた。 そして勝手に同い年の令嬢が自分の婚約者だと思い込み、何故か周囲の誰からも訂正が入らないまま勘違いは深まり、『許されぬ恋』だと思い込んで気持ちは盛り上がっていったのである。 冷静になれば初めてアーベルティーヌに送った手紙の返事に、きちんと書いてあった。 『このようなお手紙は困ります。ぜひエミリーティーヌに宛ててお手紙をお出しください』と。 それをさらに深読みし誤読し、『婚約者』以外との交流を自ら進めるなど爵位が下の自分を侮り、自分より可愛らしい天使のような妹君を辱めるつもりなのだと思った。 きっとそれもこれも妹君があんなに可愛いからだ──そうして勘違いの沼に自ら踏み込み、溺れることで想いを募らせてみれば、それは文字通りの勘違いで彼らは巻き込まなくていいアーベルティーヌを挟んでのやり取りを交わしていただけ。 交流の日に行ってもいない『婚約者』はいなくて当たり前で、『姉の名代』というつもりで現れたエミリーティーヌは、本当に交流すべき相手で。 「……何で……何で……何で……」 「フォルベリッド様………」 呻いて頭を抱え込んだ愛しい人にエミリーティーヌは気の毒そうな表情を浮かべて、そっとその白くまだ幼さの残る手を彼の足に置いた。 「……っ!エッ、エミリー……」 「そんなにお嘆きにならないで……ね?わたくしたち、もう離れなくていいのですわっ……」 「そっ、そう……そう?なの…か……?」 正しく自分の『婚約者』とわかった愛しい天使に囁かれて一瞬納得しかけたが、さすがに首を捻る。 それで、いいのか? いいのかも──しれない。 悩んでいたはずの顔がへにゃっと崩れるのを見て、同室する誰もが呆れを浮かべる。 「……なるほど。ヴィヴィエト侯爵。そなたの娘は今回の裁決に否はないようだ」 「はい」 「パラトゥース伯爵よ」 「はっ。こちらも異存はございません」 元より先ほどの見当違いな『婚約破棄騒動』のせいで、この二人がそれぞれまともな縁談を得るには年月が必要だろう。 しかもどんなに時間が立とうと、おそらくはあの時のことを持ち出され、婚約を結ぶために不利益な条件を飲まされかねない。 そんな屈辱的な婚姻を結ばせるくらいなら──
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