納得のち解散 3

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納得のち解散 3

でも──でも、エミリーティーヌは、僕の天使は、僕が侯爵になれないことをどう思っているのか── 「え?でも、わたくしたちは婚姻…できるのでしょう?うふふ…ねえ!お母様?お姉様は王家の婚姻装束をお召しになるってお聞きしたわ?だからお母様の婚姻衣装はわたくしが着てもいいでしょう?とっても素敵なのよ、フォルベリッド様!」 愛しい秘密の恋人から真に愛する婚約者になった天使は、上気した頬を緩めて微笑みながら自分の希望を述べ、『その先』を視野に入れているようには見えない。 フォルベリッドはようやく自分が恋した相手が何も考えず、単純に婚姻式を挙げられることだけを喜んでいることを知った。 そう──ただ、婚姻だけ。 その先、二人は、いや自分はバラス男爵となり、そして彼女は男爵夫人となる。 父は伯爵で、そして兄は次代伯爵だが、領地を兄弟で分けられるほど広いわけではない。 つまりフォルベリッドは宮廷貴族になる確率が高く、むしろそうなって妻やこれからできるであろう子供、そして使用人たちを養わなければならないのだ。 もしそうなれなければ父や兄の代わりに領主代理や、領地内の荘園管理を行って手当金をもらわなければならないだろう。 そうなったとしてもエミリーティーヌの、いや伯爵令息のフォルベリッドが今まで甘受してきた貴族らしい生活をおくることができるだけの金額を約束してくれるとは限らない。 ましてや怠け者が嫌いな兄のことだ──どんなにフォルベリッドが努力したとしても、妻が男爵夫人らしく家政を取りまとめることができないとわかれば、どんどん手当金を減らすだろう。 そうなれば、ただでさえ下位貴族である男爵では貴族的な威厳を保つことは── フォルベリッドは何も考えていなさそうな、ただ幸せな微笑みを自分に向ける『天使』を呆然と見つめ反すことしかできなかった。 この場ではもう裁くことはないとして、王家、ヴィヴィエト侯爵家、そしてパラトゥース伯爵家のそれぞれは解散となった。 もちろんエミリーティーヌはヴィヴィエト侯爵夫妻が、フォルベリッドはパラトゥース伯爵夫妻と兄のバリチアンに連れられての帰宅である。 さすがに夜会は最後のワルツを合図に徐々に退出していき、彼らが最後の退場者だった。 ヴィヴィエト侯爵とパラトゥース伯爵はそれぞれ無言で頷き、妻と子供を促して馬車に乗せる。 当然その車中は重苦しい沈黙に──包まれようとしたのだが、パラトゥース家は意に介さない兄のバリチアン、そしてヴィヴィエト家では念願叶ったエミリーティーヌの上機嫌さにぶち壊され、奇妙な雰囲気のままそれぞれの屋敷へと帰り道を辿った。
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