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出会った『運命の君』 4
イライライライラ…………
ゆさゆさゆさゆさゆさ………
貧乏ゆすりはだんだん激しく速くなるが、その動きにさらに革靴の爪先をパチパチと床に叩きつける音まで加わる。
間違いなく今日は月に一度の顔合わせであり、指定されたのは確かに午後のお茶の時間だったが、それよりも昼餐を共にした方が良かろうと時間を繰り上げてきたのに!
フォルべリッドは婚約の顔合わせをしてからこの一年、まったく都合を合わせようとしない『婚約者』に対してかなりの怒りを覚えていた。
それに比べて、我が義妹となるエミリーの可愛らしいことか──
「まぁ!フォルべリッドさま。じじょがおいでをおしえてくださったので、おねえさまをおむかえにいったのですよ?ですのに……」
「ああ!可愛らしいエミリーティーヌ嬢。我が婚約者殿がどうしたのかな?」
「あぁ!フォルべリッドさま……おねえさまはいま、おへやにいらっしゃらないの……」
「えっ?」
「わたしにもおしえてくださらないうちに、おでかけされてしまったのですって……わたしきっと、おねえさまにきらわれているんですの……」
「なっ……何だってぇ⁈」
毎回こうだ。
いつ訪ねても、『婚約者』は現れず、代わりにエミリーが謝罪に訪れるのだ。
そしてこうやって宝石のような綺麗な瞳にどこまでも透明な清水を溢れさせ、ギュッと小さく握った手を震わせて、それはそれは悲しそうに泣かせるのだ。
何という非情な女だ!
年上の男として、この清らかな幼い令嬢を包み込み、そして泣き止むまで優しく慰めることこそ紳士たる振る舞いである。
たまにはちゃんと屋敷にいることもあるが、「家庭教師から授業を受けているため面会不可」と言われることもあった。
それでもフォルべリッドはキチンと礼儀をわきまえ、勉強の時間が終わるまで待たせてもらうと応接室の柔らかいソファにしっかりと座る──そのうち「おねえさまのかわりに、おはなししてくださいませ」と舌足らずな言葉遣いで話す天使が現れるまで。
だがそんな時は見せしめなのか、幼いエミリーまでアーベルティーヌと同じ勉強部屋に閉じ込められて、フォルべリッドは『ちゃんと約束した日時に来てください』という伝言でウトウトと眠りかけたところを叩き起こされ、乗ってきたパラトゥース伯爵家の馬車に押し込まれるのだ。
自分はちゃんと『婚約者』としての役割を果たそうとしているだけなのに!
父上の『ご友人』たちはいつも「やぁ!近くに来たものだから!」と気安く訪問してきて、父はもちろんちゃんとスマートに対応する。
伯爵家であるわがパラトゥース家でもできることなのに、侯爵位のヴィヴィエト家で時間に構わず訪れた次期伯爵として婿入りする自分を蔑ろにするなどとは、まったく持って不愉快だ!
ましてや『婚約者』は、まるで『格下の伯爵邸など訪れる価値はない』と思っているのか、一度もフォルべリッドを訪ねてこようとはしなかった。
たかだか侯爵家に生まれたというだけで、偉いと思っているのか!爵位を継げない女のくせに!
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