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出会った『運命の君』 6
それからも、エミリーとフォルベリッドの『秘密のお手紙』は何度もやり取りが続いた。
誰にも気付かれてはいけない、ちょっとした言葉。
疚しいことなんてない。
愛だの恋だの、不信を抱かせる言い方は控えた。
回りくどく、言い方を置き換えて、暗号のように。
月に一度の交流を持つべき日にも、二人は注意深かった。
約束の時間より早く着いたし、偶然を装ったし、『婚約者』を傷つけないように賢く振舞う。
けっして未来の義兄と義妹として不自然がないように。
応接室では『婚約者』を待つと言いつつ、エミリーが謝罪に現れてお茶を飲んだ。
もちろん室内に控える侍女たちの耳にはいる会話も当たり障りなく、適切な時間を過ごしていたが、それだって『婚約者』が来ればちゃんとすぐに切り上げるつもりだったのに。
いつだってフォルベリッドがエミリーと過ごしても問題ないぐらいの時間いっぱいまで、ただ一緒にいただけだ。
時には庭を一緒に散策したこともある。
天気が良いからと通されたガラス張りの温室で時間を持て余しそうだと溜息をつく頃、やはり天使がやってきて、外出した姉が帰ってくるまでとかつて二人の天使と共にかけた庭を案内され──あの時とは季節が違い、色とりどりな花が綺麗に植えられていた。
残念なことにあまり香りはせず、これならば自分が毎日のように送る手紙に染みこませた香水の方がよほど良い匂いだろう。
フォルベリッドは言葉に出さずにそう思ったが、エミリーがふと漏らした言葉に感激した。
だって彼女は──
「にわをきれいにしてくれる人に『いい匂いのするお花だけをうえてちょうだい』っておねがいしたの。でも、『それはきせつじゃありません』って言われてしまったの。『きせつ』って、そんなにたいせつかしら?『おんしつ』でいつでも育つのだから、そのままうえてしまえばいいのに……でも、おんしつもそんなにいい匂いがしないのですよ?フォルベリッドさまのおてがみのほうがずぅっといい匂い」
そう言ってにっこり笑った時の顔はもう『可愛い』というよりも『美しい』と、本当に心の底から思った。
だがいつまでたっても『婚約者』に会えず、毎回悲しそうに、申し訳なさそうに、だけど嬉しそうに姉の不義理を謝罪しに来てくれるエミリーをこのままにしてはおけない。
このままお互い気持ちをハッキリ口にしないままでは──
そこまで考え、フォルベリッドは邪な考えを追い出すように頭を振る。
十八歳になればフォルベリッドはヴィヴィエト侯爵家に婿に入り当主となるが、エミリーはどうなるのか。
三歳違いの令嬢であるが、ヴィヴィエト侯爵が『娘は十八歳で嫁ぐべし』という考えならば、彼女が十八歳になるまでは同じ屋敷で暮らすことになるだろうが、未婚の令嬢と既婚の次期侯爵が一緒の部屋に二人きりで過ごすことなどあり得ない。
そんな不道徳なことをすれば世間体を考えた義理の父によって遠方の貴族──辺境伯などに嫁がされたり、瑕疵があっても構わないという高齢の貴族の後添えにされたり、『貴族令嬢であればいい』と考える爵位なしの富豪に身売りされるように引き渡されてしまうかもしれない。
それならばまだいい。
最悪な場合は、姉夫婦を険悪な状態に陥らせたとして、どこかの修道院に入れられ二度と俗世に戻れなくさせられないかもしれない。
ああ、そんなことになっては──二度と会うことが叶わなくなるじゃないか。
どこまでも冷淡で顔を合わせて交流を図ろうという意思すら示さない『婚約者』と、憧れ以上の熱を湛えた瞳で自分を見つめてくれる『天使』
絶対に彼女を悲しませてはならない。
そうだ。
僕はもうすぐ選ばなければ──取り返しがつかなくなる前に。
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