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伯爵家次男の言い分
僕は足早に屋敷の廊下を進み、父上の執務室の扉を勢いよく開けた。
内側に控えていたらしい従僕か何かが慌てたように僕を部屋の外に追い出そうとするかのように体を押したが、あまりに弱い力で僕は簡単に押し返す。
「失礼だぞ!僕を誰だと思っている!」
「ぼ、坊ちゃま……」
「ふんっ!」
少し胸を張っただけで、押し戻された従僕はたたらを踏んで一歩退く。
まったく──伯爵家の護衛も兼ねているはずだが、こんな簡単に押し戻されるなどあってはならない。
これは本格的に鍛え直すべきだと、護衛隊長に進言せねばなるまい。
僕はやることがまた増えたと頭が痛くなる思いだったが、それよりもまずは父上に宣言せねばならなかった。
「父上!」
「…………お前をこんな礼儀知らずに育てるように申しつけた覚えはないぞ……早めに教育係を交代させろ」
「はい、旦那様」
重厚な執務席に座る父が顔を顰め、側に控えて書類を整理している家令のヴィルトンに向かって話す。
ヴィルトンはこちらを向きもせずに頷き、さらに後ろに控える従僕に向かって軽く手を振った。
その尊大な態度にムカッとしつつ、僕は最初の目的の通り、父の前に立つ。
「父上!」
「フォルベリッド・ドゥ・パラトゥース」
僕の声よりも静かなのに、思わず膝をつきたくなるような重たさを含んだ声が、正式な名前を紡ぐ。
僕は自分で押さえることもできずに身体をビクッと震わせてしまい、恥ずかしさで顔が赤く熱くなるのを感じた。
「私はお前に入室の許可を与えていない」
「は…はい……」
「そんな礼儀すら忘れるほど、緊急を要するような事柄があるのか?」
「え……はっ、はい!」
そうだった。
顔を赤くして、父に気圧されている場合ではない。
今日こそ!
キチンと間違いを正すべきなんだ!
「僕は冷酷で人を顧みもしないアーベルティーヌ・ドゥ・ヴィヴィエトなどではなく!エミリーティーヌ・ドゥ・ヴィヴィエト侯爵令嬢と結婚します!」
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