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つらつら 2
またいつもみたいに晴琉ちゃんの顔を曇らせてしまうと思っていた。でも予想に反して晴琉ちゃんは一瞬だけ驚きはしたけれど、すぐに暖かい笑顔をくれた。
「何で笑ってるの?」
「んー?……また離れようとしてると思って」
言葉と共に晴琉ちゃんの腕の中に閉じ込められた。抵抗したらより強く抱きしめられた。身動きが取れない私に対して晴琉ちゃんは楽しそうに笑っている。
「離してよ」
「ヤダ」
楽しそうに答えてくるけれど私は何も楽しくない。
「ねぇ……どうしたら離してくれるの」
「えー?じゃあ……」
腕の力を緩めてくれたから離れようとしたけれど、腰はがっちりと抱えられているから結局距離は近いままだった。近距離で見つめ合って、晴琉ちゃんは私に条件を出した。
「私の目を見て、『晴琉ちゃんなんて好きじゃない』って言えたら離してあげるよ……ほら……晴琉ちゃんなんて?」
復唱させようとする晴琉ちゃん。この期に及んで私は離れたい気持ちと、離れたくない気持ちで揺れていた。
「……晴琉ちゃんなんて」
「好き?」
「好き……」
言い切れば全てが終わる。晴琉ちゃんは私にこれ以上強引なことをする気はきっとない。優しい晴琉ちゃんを面倒くさい私から解放してあげたい気持ちと、これからも晴琉ちゃんと恋がしたい気持ちがせめぎ合う。
「好き……」
言葉は続けられなかった。こぼれそうになる涙を抑えるのでいっぱいになっていた。私は自分のことをひねくれてるし面倒な性格だと思う。素直じゃないし可愛げもない。でも、嘘だけは付けない。
「ごめんなさい……言えない……」
「うん……ごめんね、意地悪して。ごめん寧音」
今度は私から晴琉ちゃんにしがみついた。せっかく乾いた晴琉ちゃんの甚平の肩がまた私の涙で濡れてしまう。
「そう簡単に離さないから……離れたくなくなるように、して欲しいことあったら言って?」
もうこぼれてしまったから、涙を抑える気も無くなって、言葉もせきを切ったようにこぼれ出てくる。
「晴琉ちゃんが、皆の王子様だっていいから……」
「うん」
「晴琉ちゃんのかわいいところ、私だけに見せて欲しい」
「うん……うん?別にかわいくなんか……って何してんの⁉」
すぐそばにあった耳を甘噛みしたら、さっきまで余裕そうだった晴琉ちゃんが焦り出した。構わず甚平の隙間から手を差し込んでお腹を撫でると腕を掴まれた。
「晴琉ちゃん、腹筋すごいね」
「ちょっっ……と待って!」
「何?」
「何って……え⁉え?その……寧音がするの?」
「だって晴琉ちゃんハグしかしてくれないじゃない」
「それは!だって、寧音が慣れろって言うから」
「ハグだけじゃなくて、私に、って意味だったのに……じゃあ、次はキスに慣れる?」
何か言いたげな晴琉ちゃんを無視して唇を塞いだら、途端に大人しくなった。
「かわいい」
「……あの、今日はここまでにしません?」
「ヤダ」
「そこをなんとか」
「それなら、『寧音なんて好きじゃない』って言ったらやめる」
「う゛……意地悪してすみませんでした……あ、そうだ」
うなだれながら謝ったと思ったら急に顔を上げて見つめてくるから、私も晴琉ちゃんに触れていた手を止めて見つめ返した。
「どうしたの?」
「好きだよ寧音」
「……急に何」
「約束してたの思い出した」
忘れていると思ってたのに。不意打ちしてくるなんてずるい。しかもさっきまで私に迫られて顔を真っ赤にして慌てていたくせに。それなのに急に真剣な顔で伝えてくるのだから、本当にずるいと思う。
「……今度から約束しなくても言ってね」
「うん」
「キスもして?」
「う、うん……頑張ります」
「頑張ることじゃないでしょう?」
「はい……いやでも恥ずかしいって~」
晴琉ちゃんの反応はいつも大きくて面白い。今も手で顔を覆って後ろにのけぞっている。
「慣れたらいいじゃない……ねぇ、キスしていい?」
聞いておいて返事も待たずにキスしたら、また何か言いたそうにしていたけれど、何回も繰り返したら次第に大人しくなって、合間に微かな声が漏れた。晴琉ちゃんからこんなにかわいい声が出ること、きっと皆は知らない。
「かわいい……他の子にこんな姿、絶対に見せたらダメだよ?」
「……見せられるわけないじゃん」
晴琉ちゃんの言葉に満足して、でも懲りずにまたキスをする。離さないって言われたけれど、私が離れられなくなっているだけだ。頭では分かっていても、素直じゃない私は晴琉ちゃんに委ねてしまう。
「晴琉ちゃん……私のこと、離さないでね」
「うん」
私は感情が分かりにくくて、素直じゃなくて、面倒くさい性格をしていると思う。感情が豊かで、素直で、真っすぐな性格をしている晴琉ちゃんと恋をするには難があるかもしれない。ごちゃごちゃとすぐに考え込んでしまう私は、きっと迷惑をかけてしまう。それでもあなたが私を離さないでいてくれるなら――。
私と素敵な恋をして欲しい。
――つらつら物思い 完
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