きらきら

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きらきら

「晴琉ちゃん。お手」 「ん?はい」  高校2年生の春。進級して私は晴琉ちゃんと同じクラスになった。円歌と葵ちゃんは別のクラスだけど二人は同じクラスでとても喜んでいた。  1年生の時の秋くらいから四人で校内のラウンジに集まり、お昼時間を過ごすことが当たり前になっていた。私は活発で人懐っこい晴琉ちゃんのことをワンちゃんみたいだなとよく思う。思っていたから、つい手のひらを出して言ってしまった。でも何も疑問に思わず素直に手を乗っける晴琉ちゃんはかわいい。それを見て円歌もニコニコと笑みを浮かべている。でも葵ちゃんだけは「何をしているの?」と言わんばかりの不審な顔をしていた。良かった。まともな人がいて。 「寧音、ご褒美は?」 「何も考えてなかった。ごめんね晴琉ちゃん」 「えぇ~」  ただお手を求めるなんて普通おかしいと思うのだけれど。晴琉ちゃんは特に疑問には思わないみたい。 「いやいや、急に何してんの?」 「晴琉、ワンちゃんみたいでかわいいねぇ」 「えぇ?」  まともな事を言う葵ちゃんと違って素直に感想を言う円歌。葵ちゃん、わりと天然な二人に挟まれて今まで大変だっただろうな。 「葵ちゃんもお手したいの?」 「そんなわけないでしょ」  分かっていて乗っかるような発言する私が増えて葵ちゃんは余計大変そう。「お手~」と笑顔の円歌から手を差し出されて困っている葵ちゃんを見るのは楽しい。 「そういえば新入生どれくらい入りそうなの?」 「どうだろ?見学にはたくさん来てたけど、ほとんど志希先輩と晴琉目当てだから。実際入るのは4,5人かな」  困っている葵ちゃんに助け船を出すように話題を提供してあげたら、葵ちゃんは流れるように円歌の手を取って繋いだまま答えてきた。しれっと見せつけてくるじゃない。お手を流された円歌はちょっと不服そうだけれど。  葵ちゃんと晴琉ちゃんは志希ちゃんと同じバスケ部の後輩で、今年は二人にも後輩ができる。綺麗系でモデルタイプの志希ちゃんと去年の文化祭で劇をして王子様の格好をしたカッコイイ系の晴琉ちゃんは違う層にモテるから、バスケ部の見学にはたくさんの女子たちが来ているらしい。 「二人と違って落ち着いてるし、葵ちゃんも後輩からモテそうだよね」 「え?」 「へぇ?」  見せつけてきた仕返しをする。円歌は不満そうな顔をしていて、それを見て困った顔をしている葵ちゃんを見るのはやはり楽しい。 「心配なら円歌も見に行ってあげたらいいのに」 「えぇー。め……葵がレギュラーになったら見に行くって約束だし」 「ねぇ、今めんどくさいって」 「はは!円歌はバスケに興味ないもんね」 「でも晴琉のことは応援してるよ」 「えぇ……私は?」 「葵は後輩ちゃんたちがいるんでしょー」  不貞腐れている円歌にシュンとして肩を落とす葵ちゃん。ちょっとやりすぎたかな。 「でも葵ちゃん、見学の子たちの声援全く聞こえてないよね。だって前に行った時、私も応援したのに全然反応しなかったもの。晴琉ちゃんは手振ってくれたのに」 「私はファンサ完璧だからね」 「え、そうなの?ごめん全然気付いてなかった」 「それなら私も行く必要なくない?」 「円歌の声なら気付くでしょ。ねぇ葵ちゃん?」 「え、あ、うん!」 「ほんとぉ?」 「もちろん」 「そっかぁ」  円歌のに笑顔が戻る。機嫌は直ったようだった。そもそも不貞腐れたフリをしていただけだったけれど。葵ちゃんも元気になった。出会った最初のころは葵ちゃんって感情をあまり表に出さない子だと思ってたけど、円歌のことに関して言えば分かりやすいくらい表情が豊かになる子だと思う。  この後もまた取り留めのない話を続けていたら予鈴が鳴ったから教室へ戻った。戻るまでの廊下でもずっと円歌と葵ちゃんは手を繋いでいて。晴琉ちゃんがそれを微笑ましそうに見つめていた。その光景が私には眩しく感じた。 「寧音。今日は部活見に来る?」  放課後。晴琉ちゃんに声をかけられた。実は去年の文化祭の後、志希ちゃんとは仲良くできないと葵ちゃんに宣言したけど、たまにバスケ部の練習を見に行くようになっていた。葵ちゃんだけでなく円歌と晴琉ちゃんも気にかけてくれていたこともあるし、それに私は志希ちゃん自体に変化を感じていた。  あの事件があってから志希ちゃんは前よりずっとファンの子たちに向き合うようになっていたのだ。遊び続けているものの、いざこざが起きないようにフォローしている姿を見るようになった。志希ちゃんが変わろうとしているのに、私だけがいつまでも変わらずに意地を張るのも嫌な感じがして、少しずつだけれど志希ちゃんと交流するようになっていた。 「見学の子が多いなら遠慮しておこうかな」 「は~い。じゃあまた落ち着いたら来てよ」 「うん」 「じゃ、行ってくるね」 「うん。頑張ってね晴琉ちゃん」  教室で晴琉ちゃんを見送って、円歌と帰るために昇降口に向かった。円歌はすでに待っていて……それに横には。 「……志希ちゃん」 「あ、寧音来たね。じゃあそろそろ部活行くね~」 「はい。先輩頑張ってください」 「わぁ。めちゃくちゃ頑張れる~」  ちらりとこちらを見る志希ちゃん。志希ちゃんが期待していることは分かっている。 「……頑張って」 「うん!じゃあまた明日ね~」  まだ目は合わせられなかったけど、ご機嫌な声が横を通り過ぎて行った。これでも頑張ったほうだけれど。 「よしよし。良く言えたねぇ」  だからと言って何故かご機嫌な円歌に、頭を撫でられて褒められるのは少し不服かな。 「もう。買い物行くんでしょう?早く行こう?」 「はーい」  電車に乗って賑やかな繁華街へと向かう。円歌は来週に葵ちゃんとデートに行くらしい。だから着ていく服を選ぶのに付き合ってほしいと言われていた。  お店に着いて円歌が服を見ている間、私も適当に店内を見て回る。円歌とは着ている服の系統が似ているから、同じ店を見ていても案外退屈はしない。円歌に似合いそうなイヤリングを見つけて、見せに行こうと円歌を探す。葵ちゃんを想って、葵ちゃんが喜ぶであろう服を探している円歌の姿が目に留まった。恋をしている女の子の表情ってどうしてこんなにかわいいのだろう。 「そのワンピースかわいいね」 「ほんと?じゃあこれにしようかなぁ……寧音、何持ってるの?」 「これ円歌に似合うかなと思って」 「えー、じゃあそれも買う。お揃いにする?」 「葵ちゃん妬くよ?」 「そう?葵って寧音に嫉妬するの?」  きっと葵ちゃんは放課後に円歌と一緒に買い物に行ってることも羨ましいと思っているのに。円歌のちょっと抜けているところ、かわいいと思うけど葵ちゃんは苦労しているだろうな。見ていて面白いからそのままでいてくれていいけれど。 「無自覚って怖いね」 「え?何の事?」 「何でもないよ。円歌はかわいいね」 「なにそれー」  学校でされたように今度は私が円歌の頭を撫でた。からかったつもりだったけど、私の手にすりつけるように頭を動かして嬉しそうに受け入れる円歌は小動物みたいでかわいらしい。葵ちゃんだったら静かに悶えそう。  試着をする円歌を待つ間にイヤーカフを買った。私の趣味ではない少しゴツゴツとしたデザインのもの。円歌が見てない間に買いたかったから手短に会計を終えて試着室に向かうと、ちょうどいいタイミングで円歌が出てきた。 「うん、似合ってる……ネックレスにも」 「ありがと。これはデートの日はつけないけどね。指にするから」  円歌は葵ちゃんとのペアリングをネックレスにしていつも身に着けている。制服だと外から見えないようにしているけど、今はワンピースの上にシンプルなピンクゴールドの指輪が輝いて見えた。胸元にある指輪を愛おしそうに撫でている円歌は本当に幸せそうだ。 「……いいなぁ」 「うん?」 「ううん。何でもない」 「そう、じゃあ着替えてくるね」  円歌と葵ちゃんを見守るようになって半年くらい経って。昔は恐れていた恋に私は次第に憧れるようになっていた。そして恋をしたいと思う度に、頭の中に思い浮かぶのは――。  翌日。いつも通り四人で過ごすためにラウンジに向かったお昼休み。今は先に着いた私と晴琉ちゃんの二人きり。 「晴琉ちゃん。お手」 「また?はい」 「ご褒美欲しい?」 「え?あるの?欲しい欲しい!」  私の手を取る晴琉ちゃんはいつだって純粋無垢な眩しい笑顔をくれる。きっとちょっとこじらせてて、ひねくれてる私の言葉は彼女を戸惑わせてしまうことばかりなのかもしれないけれど。それでも私は――。 「ご褒美、私とのデートじゃダメ?」 「え?」  あなたと恋がしてみたいと思ったんだ。
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