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祖母の家から事件のあった僕の家の近くを通り、正次さんの家へ向かう。既に両親と妹と暮らした家はなく、駐車場になっている。なんの面影もない跡地でも通ることを躊躇って、遠回りするのが常だ。しかし、今日はいつもの道が工事中で通れない。年末が近づくと道路工事が多いので仕方がない。
駐車場の横に差し掛かった時、背後から声を掛けられた。
「正次さんのところのお孫さんよね」
事件後、何年も経つと僕らのことを知らない住人が増えていった。未解決ではあるが事件の風化は僕には良い方に作用していた。友達を作りやすくなり、大人たちの同情を感じずに済む。
「ああ、はい」
僕は孫ではないが、わざわざ否定することもない。気持ちは孫以上の関係だ。
その中年女性は迷惑そうにゴミ捨て場を見つめて「正次さんにゴミ捨てのルールを守るように言って頂戴。もう、ビンやらペットボトルやらを入れた燃えるゴミは困るのよ」と、僕に小言。
「すいません……」
正次さんがゴミのルールを守らないのは今始まったことではない。それに、僕はそのことで一人強盗から殺されずに居られたのだ。夜にゴミ捨てに行くのはルール違反だ。
「あとで僕が分別しておきます」
頼んだわよと告げると、女性は僕を解放して去っていった。ちょこんと頭を下げた僕は、正次さんの家の横に置いてあるゴミを思い浮かべていた。家に入る前にこっそり分別しておこう。そうすれば、正次さんも嫌な気持ちにならずにすむはずだ。
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