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「眩しいな…」
「そりゃそうでしょ。今日めっちゃ晴れるらしいよ」
「マジ、何度?」
「10度くらいだったかなー」
昨晩の雪がさらに積み上がり、歩道からは車のルーフが見える高さになっていた。
朝日が雪に反射して、上から下からサンサンと光が照射されている。
雪焼けとはよく言ったものだと大希は思った。
「わざわざ送ってくれなくてよかったのに」
すっかり化粧っけがなくなった花実も、眩しそうに眼を細めている。
2人で歩く、大雪一過の朝の道だった。
「いつ転ぶかわからんからな。花実は」
「失礼な、もう転ばんし」
それに、彼女だからな。
という台詞は、やはり気恥ずかしくて言わなかった。
あの後、やれ化粧落としだの歯ブラシだのでひと悶着あり、結局大希が再び雪の中をコンビニまで歩く羽目になった。
そういった手間すら新鮮で、大希にとって嬉しいことであった。
ぼんやり後ろ姿を眺めていると、花実がにやにやしながら視線を向けた。
「なーに見てんの」
「いや。すっぴんもあんま変わらんなと思って」
あはは!と花実が吹き出した。
「やば。大希にフィルターかかっちった」
「彼女フィルター?」
「そう、彼女フィルター」
そう言って、またバカみたいに笑いあった。
道行く人が見たら、朝からさぞテンションが高いカップルだと思ったことだろう。
「今ならあたし、何してもかわいいんじゃない?」
花実は冗談っぽく言うと、すすと寄ってきて、大希の左手を捕まえた。
驚いて隣を向くが、マフラーで表情は窺い知れない。
厚い手袋から感触を確かめるように、大希はしっかり握り返した。
「やば、恥ずいね」
「まぁ、恥ずいな」
「みんなびっくりするかな」
「案外普通かもよ。やっとかよ、とか言われたりしてさ」
「へへ」
花実は嬉しそうに、つないだ腕をぶんぶんと振った。
道の先、車の轍がまっすぐ伸びている。
2本の線に挟まれた雪がきらきらと輝いて、光の道が出現していた。
思わず写真に収めたくなる景色だったが、つないだ手を離すのが躊躇われて、スマホを取り出すことはしなかった。
写真好きの花実も、そのまま眼前の雪を眺めている。
同じことを思ってくれているといい。
この景色をずっと覚えていたいと、大希は思った。
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