腐れ縁大学生が雪の夜に付き合い始める話

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◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「眩しいな…」 「そりゃそうでしょ。今日めっちゃ晴れるらしいよ」 「マジ、何度?」 「10度くらいだったかなー」 昨晩の雪がさらに積み上がり、歩道からは車のルーフが見える高さになっていた。 朝日が雪に反射して、上から下からサンサンと光が照射されている。 雪焼けとはよく言ったものだと大希は思った。 「わざわざ送ってくれなくてよかったのに」 すっかり化粧っけがなくなった花実も、眩しそうに眼を細めている。 2人で歩く、大雪一過の朝の道だった。 「いつ転ぶかわからんからな。花実は」 「失礼な、もう転ばんし」 それに、彼女だからな。 という台詞は、やはり気恥ずかしくて言わなかった。 あの後、やれ化粧落としだの歯ブラシだのでひと悶着あり、結局大希が再び雪の中をコンビニまで歩く羽目になった。 そういった手間すら新鮮で、大希にとって嬉しいことであった。   ぼんやり後ろ姿を眺めていると、花実がにやにやしながら視線を向けた。 「なーに見てんの」 「いや。すっぴんもあんま変わらんなと思って」 あはは!と花実が吹き出した。 「やば。大希にフィルターかかっちった」 「彼女フィルター?」 「そう、彼女フィルター」   そう言って、またバカみたいに笑いあった。 道行く人が見たら、朝からさぞテンションが高いカップルだと思ったことだろう。 「今ならあたし、何してもかわいいんじゃない?」 花実は冗談っぽく言うと、すすと寄ってきて、大希の左手を捕まえた。 驚いて隣を向くが、マフラーで表情は窺い知れない。 厚い手袋から感触を確かめるように、大希はしっかり握り返した。 「やば、恥ずいね」 「まぁ、恥ずいな」 「みんなびっくりするかな」 「案外普通かもよ。やっとかよ、とか言われたりしてさ」 「へへ」 花実は嬉しそうに、つないだ腕をぶんぶんと振った。 道の先、車の轍がまっすぐ伸びている。 2本の線に挟まれた雪がきらきらと輝いて、光の道が出現していた。 思わず写真に収めたくなる景色だったが、つないだ手を離すのが躊躇われて、スマホを取り出すことはしなかった。 写真好きの花実も、そのまま眼前の雪を眺めている。 同じことを思ってくれているといい。 この景色をずっと覚えていたいと、大希は思った。
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