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アルコールで火照った顔に、夜風が気持ちいい―― 。
なんて思ったのは店を出て数分のことで、しだいに体全体が冷え、身を刺すような寒さが襲ってきた。
大希はニット帽を目深にかぶり、ダウンジャケットの襟をかき抱くように身を縮こませる。
隣を歩く花実を見ると、コートのフードとマフラーで目以外をすっぽり覆い隠していた。
「寒みいな…」
「そりゃそうでしょ。今夜も降るみたいだし」
「今夜って、これから?」
「そーみたい。深夜だって」
除雪車やユンボによって集められた雪が、優に背丈を越える高さになって道の所々に積まれている。
東北の大学に入って3年も経つと、この時期の豪雪にも大して驚かなくなっていた。
もう1枚着てくりゃよかったとこぼす大希の横で、花実はふふんと鼻を鳴らした。
「あれ?花実寒くねーの?」
「あたし今日めっちゃ厚着してきたから」
そういえば、今日は珍しくスカートじゃなかったなと大希は思い出した。飲み屋では気付かなかったが、確かにいくらか着膨れしているようだった。
「いつもアホみたいな薄着してるくせになあ」
「ちょっと、アホみたいって何」
「ほら、肩とか腹出てるトレーナーよく着てるじゃん」
「はあー?トレーナーじゃなくてニットだし、あれがかわいいんだし!あー、年中パーカーの大希にはわかんないか」
「あっおまえパーカー馬鹿にしたな?パーカーマジで万能だから!」
「でもデートとかで着れないじゃん」
「いや着れるね。余裕だね」
「ないわー」
いつもの軽口を言い合いながらも、二人の足取りは軽い。忘年会の賑やかな余韻が残っていた。
「やーでも、楽しかったね。合同忘年会」
花実も同じことを考えていたようで、唯一見える目だけでも笑っているのがわかる。
「盛り上がってよかったよな。幹事お疲れ」
「大希もね」
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