3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大希と花実は同じサークルの同級生であり、同じ研究室のゼミ仲間である。
毎日顔を合わせていれば嫌でも距離は縮まるもので、3年生となった今ではすっかり気の置けない仲になった。
軽口を叩き合い、論文の解読を助け合い、宅飲みで互いの部屋を行き来しているうちに、いつの間にか公認カップル扱いされるようになってしまった。
教授に至っては、仲の良い双子くらいに思っているかもしれない。
何度、周りから
「まだ付き合ってないの?」「なんで!?」
と驚かれたことかわからない。
2人はそれなりに互いのことを気に入っていたが、彼氏彼女を飛び越えて腐れ縁の幼馴染みたいな関係になってしまった今では、それ以外の接し方がわからないのであった。
そんな忘年会の折、サークルの幹事を大希が、ゼミの幹事を花実が担当することになった。
残念ながら短絡的な部分も似ている2人であるので、
「どうせなら一緒の店でやっちゃおっか!」
となるのは、至極当然の流れであった。
実際2人はよく働いた。お互いのコミュニティに顔が利くため、率先して交流しようという共通認識があった。
各テーブルの注文を取って回り、教授に酒を注ぎ、皿を下げ、輪に入れない下級生をフォローする。その目まぐるしい活躍たるや、自分たちが盛り上げねばという固い使命感さえ感じられた。
さらには、密かに友人同士の恋の応援までしていたのだ。
「いやー、あたしらが席替え提案したおかげだよねえ」
「ファインプレーだったよな、あれ」
目的の2人を自然と近い席に誘導し、最初は複数人グループで話すことで緊張を解き、最終的に2人きりの時間を作る。大希と花実の阿吽の呼吸により生まれた、熟練の連携技であった。
真面目な友人同士ウマが合ったようで、帰り際にはちゃっかり連絡先まで交換していた。
今日の段階としては大成功である。そのことは良い。苦労してセッティングした甲斐があった。
しかし、ふと大希が独り言のように呟いた。
「なんでこんな他人の世話ばっかしてんだろうな。俺ら…」
「今日の会だと仕方ないよねー。あたし達そういうポジションだし」
「まあなあ」
飲み会の盛り上げ役、メンバー間の調整役、トラブルの対処役。
大希としては役立てること自体が嬉しかったし、割と楽しんでやっていた節もある。大変な時があっても、投げ出そうと思ったことは一度もなかった。
大希より頑張る奴が、いつも隣にいたからだった。
今度は花実が愚痴るように言った。
「あーあ。彼氏なんて、大学入ったらすぐできるもんだと思ってたなー」
「それな。俺もこんだけ女子いれば、彼女余裕だなって思ってたわ」
ちらり、とお互いの顔を見やる。
失笑とともに、同じタイミングで目を逸らした。
「大希男子校だっけ?そりゃ無理だね」
「おまえだって女子校だろうが」
はあ、と同時にため息をつく。
間違いなく仲は良い2人だったが、お互い恋愛における経験値が乏しいため、この先どう関係を進めていけばいいかわからない。
こと大希に至っては、どうしても気恥ずかしさが勝ってしまい、今さら面と向かって告白なぞできる気がしなかった。
酔いも手伝ってか、少し足元がおぼつかない花実を見ながら、大希はもう一度ため息をついた。
最初のコメントを投稿しよう!