腐れ縁大学生が雪の夜に付き合い始める話

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◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 除雪車によって歩道にも雪が積み上げられ、いつもより視点が高い。 夜の雪道はトラップが満載だ。 雪は日中に溶け、夜凍るというサイクルを繰り返すため、表面がツルツルでよく滑る。 かと思えば降ったばかりの雪も残っていて、一歩踏み間違えるだけで簡単に膝まで埋まってしまうのだ。 「ぎゃっ」 見事に軟雪の部分を踏み抜き、花実がおかしな体勢になっていた。 足を抜こうと四苦八苦する姿が、なんだか笑えてしまう。 「よくハマるね、おまえ」 「うっさい、助けて」 大希は手を掴んで引っ張り上げようとしたが、手袋の遊びに力が入らず、体ごと支える格好になる。 厚着していても花実の体は軽かった。 「あー最悪。ブーツ買ったばっかなのに」 「はしゃぐからだぞ。酔っ払いのくせに」 「何をー?あたしは楽しい日ははしゃぐって決めてんの!」 中まで濡れたであろう靴を意に介さず、花実は足元の雪を掬った。 こちらを向いてにやりと笑う。よくないことを考えている時の目だった。 「ていっ」 案の定、花実が雪の塊を投げつけてきた。 雪は正確に大希の顔に命中し、花実がけらけらと笑う。 「ほら、大希も!」 「この酔っ払いが…」 すかさず大希も応戦する。 サークルでも飲み会でも、はしゃぐ時は全力ではしゃぐ2人だった。 そうしてしばらくじゃれ合っていたが、花実のキャメルコートが真っ白になる頃には、2人とも肩で息をしていた。 「はー、やばい。汗かいた」 「なんで雪合戦なんだよ、おかしいだろ」 「大希は、なんだかんだ言って付き合ってくれるもんね。そういうとこ好き」 「はいはい」 普段からこういうことを言いがちな花実だが、どうせ酔っ払いの戯言である。 努めて平常を装い、すっかりほどけたマフラーを巻き直していると、今後は頭上から雪が落ちてきた。 頭に微かな感触だけ残して、ふわっと消えてしまう。予報通りの降雪だった。 「おーい、降ってきちまったぞ」 「あれ、もうそんな時間?」 それでも花実は嬉しそうに、空を見上げてくるくる回る。 「なんかさ、幻想的じゃない?」 花実が指さした先、大粒の雪が街灯に照らされた部分だけ反射している。 スポットライトの下、無数の光の玉が踊っているようだった。 大希は手袋を外してポケットに手を入れたが、花実はすでにスマホを構えていた。 花実は写真を撮るのもうまい。後で送ってもらおうと、大希は手袋を付け直した。 構図が気に入らないのか、スマホを構えたまま花実が後退する。 「おい、後ろ見ないと…」 危ないぞ、と言うより先に、足を滑らせた花実が盛大にすっ転んだ。 大希は慌てて駆け寄ったが、雪の上なので汚れはなく、花実もスマホも無事なようだった。 「なにやってんだほら、ちゃんと立つ」 「やばいめっちゃ濡れてる…。靴下までびっしょり」 そりゃあんだけはしゃげばな、という言葉を大希は飲み込んだ。 体を起こして、ぐずる花実の服についた雪を払ってやる。 「あー、ほら。ケツまで真っ白だぞ」 ちょっと、どこ触ってんの!と怒られるかと思ったが、花実はされるがままだ。 これは相当酔っているなと大希は思案した。 あと数分も歩けば大希のアパートだが、花実はさらに15分以上歩かねばならない。 この状態の花実を放っておいていいものか。 かと言ってこの雪の中、花実のアパートまで往復する気力はない。 花実はしばらく無言だったが、思いついたように振り返った。 「大希んちさあ、すぐそこだよね」 先ほどと同じ笑みだった。 「ちっとドライヤー貸して?」
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