3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
慣れない雰囲気から開放された2人は、さっきまでの自分たちがおかしくなって笑いあった。
ムードもへったくれもないが、これが自分たちらしい。
なるようになるものだと大希は思った。
「恋人って何するのかな?」
緊張が解けて喉が渇いたのか、花実は2本目のペットボトルを開けている。
「そりゃあ、一緒に出掛けたり、飯行ったり、飲み行ったり」
「いつもやってることじゃん」
確かにそうであった。
お前らは距離感がおかしいと友人に言われたことがあったが、そういうことだったのだろうか。
思いついたように花実が言う。
「合法的に相手の時間をもらえる、ってとこじゃない?」
「おー、それっぽい」
そうか。
これからは、胸を張って花実と時間を共有できるのか。
そう思った時、じわじわと嬉しさが込み上げてきた。
花実は今までも色んな場所で、色んな方法で、大希に時間をくれていた。
この感情が、愛しいという気持ちなのかもしれない。
「そういえば、あったな。恋人がすること」
「え、なに?」
大希がにじり寄って顔を近づけると、花実は弾かれたように後ずさった。
「おい」
「急に来るじゃん!びっくりしたあ」
けらけら笑いながらペットボトルを傾ける花実だが、視線は明後日の方を向いている。赤い顔は酔いのせいだけではないことを、付き合いの長い大希はとっくに気付いていた。
大希は立ち上がり、改めて花実の横に座りなおした。一瞬びくっと体を強張らせた花実だったが、それ以上動くことはなかった。
手を伸ばし、花実の耳に触れる。
青い星型のピアス。遊び用のものが欲しいからと、大希が買い物に付き合った時のものだ。
それを何度か指の腹で撫でると、花実からわずかに声が漏れた。
「花実」
「な、なに?」
「それ取って」
視線の先に、ルームライトのリモコンがある。
花実は無言でリモコンを差し出した。耳が気の毒なほど真っ赤に染まっている。
もっとも、大希も似たようなものかもしれない。
部屋の電気が消える。
街灯の光がカーテンに滲んで、花実の輪郭がぼやけて見える。
いつもの部屋が、別世界になったようだった。
「やっぱり雪あると明るいね」
少し緊張を含んだ花実の声。
「そうだな。これなら常夜灯つけなくて平気かな」
じょうやとう、と花実が呟いた。
「あの小っちゃい電気のこと?」
「常夜灯だろ?」
「あたし茶色って呼んでた」
大希は小さく吹き出した。
「長野の田舎者はこれだから」
「はあー?群馬に言われたくないんですけど?」
こんな時でも2人の軽口は止まらない。
柔らかい空気の中、再び顔を近づける。今度は花実も逃げなかった。
雪明かりの下、二人の影が重なった。
最初のコメントを投稿しよう!