腐れ縁大学生が雪の夜に付き合い始める話

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◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 慣れない雰囲気から開放された2人は、さっきまでの自分たちがおかしくなって笑いあった。 ムードもへったくれもないが、これが自分たちらしい。 なるようになるものだと大希は思った。   「恋人って何するのかな?」 緊張が解けて喉が渇いたのか、花実は2本目のペットボトルを開けている。 「そりゃあ、一緒に出掛けたり、飯行ったり、飲み行ったり」 「いつもやってることじゃん」 確かにそうであった。 お前らは距離感がおかしいと友人に言われたことがあったが、そういうことだったのだろうか。 思いついたように花実が言う。 「合法的に相手の時間をもらえる、ってとこじゃない?」 「おー、それっぽい」 そうか。 これからは、胸を張って花実と時間を共有できるのか。 そう思った時、じわじわと嬉しさが込み上げてきた。 花実は今までも色んな場所で、色んな方法で、大希に時間をくれていた。 この感情が、愛しいという気持ちなのかもしれない。 「そういえば、あったな。恋人がすること」 「え、なに?」 大希がにじり寄って顔を近づけると、花実は弾かれたように後ずさった。 「おい」 「急に来るじゃん!びっくりしたあ」 けらけら笑いながらペットボトルを傾ける花実だが、視線は明後日の方を向いている。赤い顔は酔いのせいだけではないことを、付き合いの長い大希はとっくに気付いていた。 大希は立ち上がり、改めて花実の横に座りなおした。一瞬びくっと体を強張らせた花実だったが、それ以上動くことはなかった。 手を伸ばし、花実の耳に触れる。 青い星型のピアス。遊び用のものが欲しいからと、大希が買い物に付き合った時のものだ。 それを何度か指の腹で撫でると、花実からわずかに声が漏れた。 「花実」 「な、なに?」 「それ取って」 視線の先に、ルームライトのリモコンがある。 花実は無言でリモコンを差し出した。耳が気の毒なほど真っ赤に染まっている。 もっとも、大希も似たようなものかもしれない。 部屋の電気が消える。 街灯の光がカーテンに滲んで、花実の輪郭がぼやけて見える。 いつもの部屋が、別世界になったようだった。   「やっぱり雪あると明るいね」 少し緊張を含んだ花実の声。 「そうだな。これなら常夜灯つけなくて平気かな」 じょうやとう、と花実が呟いた。 「あの小っちゃい電気のこと?」 「常夜灯だろ?」 「あたし茶色って呼んでた」 大希は小さく吹き出した。 「長野の田舎者はこれだから」 「はあー?群馬に言われたくないんですけど?」 こんな時でも2人の軽口は止まらない。 柔らかい空気の中、再び顔を近づける。今度は花実も逃げなかった。 雪明かりの下、二人の影が重なった。
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