【早朝】

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【早朝】

「相変わらず今朝は寒いな」 早朝の風が朝陽に洗われてキラキラと流れている。 今日は妻ひずえを連れて、一泊二日のドライブ旅行。 「ひずえーー」 「はーい」 妻は準備に余念がないが返事はいつも元気である。 これが出掛ける時の我々夫婦のいつもの掛け合い。 本当に可愛い妻である。 準備している妻を横目に車へ急ごうとした瞬間、 妻の香りが私の身体をかすめて流れた。 「あっ、ひずえの香りだ」 ふわぁっと動く髪の毛は、毛先まで洗練されていて、    妻の持っている、その艶やかさはまさにハイグレードだ。 その場の雰囲気がパッと華やぐ、そんな妻である。 ひずえが私の妻になってくれたおかげで、私のつまらなかった人生に、明るい挿し色が一色増えたんだ。 ふっと、妻を見つめてそんな結婚当初のことを考えていた。 私は幸せ者だなぁと何故だか恥ずかしくなる。 その時だった。 「いっくん、鼻」 愛らしい眼をしながら、 そしてクスっと笑いながら、 ひずえがこちらを向いている。 妻と眼が合った。 そう。 私は、何か想ったり、見破られるような虚偽発言をしたときに、どうやら小鼻が膨れるらしい。 まっ、妻曰く!だが。 妻の前では、クールないっくんで居たいのだが、これがまたなかなかハードルが高い。 なんなら、仕事で顧客と対峙している方がよほどクールで居られると、朝から自己分析する。 結局のところ、 妻に見惚れて朝からポエムでお花畑な頭になっていた、だらしない私の顔つきを見て、良からぬことを想っているな、と気が付かれてしまったってことがオチである。 ナイスな妻だ。
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