消したいあなた

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「なあなあ、春日(かすが)。何でも消せる黒板消しって知ってる?」  休み時間、本を読んでいると、前の席から佐藤が話しかけてきた。  私は本を開いたまま佐藤に視線を送る。 「ううん、知らない。どんな話?」 「それがさ、どこのかは知らないんだけど、ある教室の黒板消しはさ、何でも消せちゃうんだって」 「何でも?」 「そう。何でも。俺はテストとか消しちゃいたいなあ」  頭の後ろに手を組みながら目を閉じて、夢を語るように話す佐藤。 「あはは、佐藤らしいね」 「な、春日はどうだ? 何か消したいものとかある?」  佐藤が右手を机に乗せて尋ねてくる。  消したいもの。消したいものか。 「あんた、とか?」 「え……」  一瞬、佐藤の時間が止まった気がした。私はクスリと笑って。 「ふふ、冗談」 「そ、そうだよな。もう、びっくりさせんなよ!」  ははは……、と乾いた笑い声が目の前の男の口から漏れる。 「……お、おれちょっと、トイレ行ってくるわ」 「うん、いってらっしゃい」  椅子から立ち上がると足早に出口に向かう佐藤。その右手はかすかに震えていた。  あーあ、言うつもりなかったのに。  佐藤のやつ、本当に冗談だと思ったのかな。それとも本気にしたのかな。  思ってるよ、消しちゃいたいって。  皆の中から佐藤の存在消しちゃいたいって。  そうすれば、佐藤は誰からも相手にされなくなる。  私のことだけ見てくれる。
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