今日も胸の中で降り積もる

2/11
前へ
/11ページ
次へ
*  *  *  初めまして、が空港だなんて正直怖かったと思う。私も恐る恐る、声を掛けたし…… 「ハルキ……くん」  通話越しで何度も呼んだ彼の名前を、呼び捨てにできずに、最後に掠れがちな「くん」を付けしてしまった。私の顔を見た瞬間、笑顔を綻ばせて、ハルキは駆け寄ってくる。ネイビーのコートは、私の真っ白なコートと並ぶと、まるで夜と雪みたいだと思った。 「ユキ、おはよう!」  初めまして、ではないんだという思いと、ハルキがまっすぐ見つめて、迷わずに名前を呼んだことに胸がじーんっと熱くなる。 「おはよう、ハルキ」  私のハルキくんと呼んだ声をなかったことにして、改めて対面での初めましてをやり直す。最初の呼びかけはそもそもハルキには、声が届いてたかどうかすらわからないし。  強く抱きしめられた衝撃に倒れそうになりながら、力を込めて踏ん張る。ハルキは嬉しそうにくるくると私の周りを回って、私の存在を確かめるように何度も名前を呼んだ。 「ユキ」 「聞こえてるよ、もう!」  そんな様子のハルキに、いつもの通話の時の調子を取り戻す。ドキドキとしていた緊張感は、まだ背中を強張らせていたけど。 「じゃあ、行こっか!」  するりと自然のように手を繋がれて、カァっと身体中に熱が回る。触れている。ハルキの手に触れているという事実に、めまいがした。  いつも声だけで、文字だけで繋がっていたのに。今は、肌と肌が触れている。  会うことが決まってからどこに行くか、何度も何度も二人で考えた。ハルキが「私の住む街を見たい」と言ったから、雪が降る中、高速バスで移動する。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加