第一話 違和感

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第一話 違和感

 目を開けると、“知らない部屋″だった。  ベッドの上にいる。  普段、自分が寝ている布団より心地よい。そしてシーツの肌触り感も…。  そしてどこかほんのりいい香りのする部屋。  綺麗な部屋。 ――ど、どこ?ここ…  身体をゆっくり起こす。  まだぼうっとして、夢でも見ているのかと、部屋を見渡す少年の名は、仙藤(せんどう) 昭智(あきとも)。  高校二年生の十七歳。 ――いや…待て待て…!  ベッドから立ちあがろうとすると、身体中が痛いことに気づいた。 「いつつつ…」  それに頭が回っているようだ。まるで回転系のアトラクションに乗ったばかりのような。  訳が分からない昭智は、一度深呼吸をして、一番新しい記憶を思い出そうとした。  昭智は地元のスーパー“オクヤマ″でアルバイトをしている。  少ない時で週三、多い時で週五のシフト。  惣菜コーナーで揚げ物を揚げたり、日用雑貨の品出しを含めて、レジ打ちも担当、何でもこなすので店からは重宝されていた。  放課後から、今夜も閉店まで仕事があり、店を閉めた後、店長と、もう一人の女子大生のアルバイトと、挨拶をして解散。  自転車で自宅までの帰路についた。 ――…そう、終わって、チャリ乗って帰ったんだよなぁ  ふと、壁に掛けてある時計に目をやると、二十三時半。 ――げっ、こんな遅いのか!  アルバイト先のスーパーの閉店時間は二十一時。レジの精算や、戸締りを行なって、出るのが二十一時十五分。  “オクヤマ″から自転車に乗って、自宅に着くのがいつもなら二十一時半だ。  昭智は、親が心配しているのではないかと、気になった。  だが、同時に、“ここ”はどこなのかと疑問が湧く。  つまり、振り出しだ。 ――チャリで帰って…いた。そう、早く帰って、新作ゲームの続きをやりたいと…  昭智は薄らと思い出した。  光…。  そう、眩しい光。ヘッドライトの光だ。  新作のゲームソフトを購入した最近は、それが毎晩の楽しみだった、昭智。  今夜も夜中までプレイすることにワクワクしながら、ペダルを力強く漕いでいた。  夜の住宅街、人も車も少ない道の曲がり角を勢いよくオーバー気味にハンドルを切ったところで、突然車のヘッドライトが現れた。 ――…そう、そうだ。やべえっと思った。で…気づいたらここ?  “体の痛み”が、その時のものなのかはっきりしないが、擦り傷や、痣があちこちに出来ているようだった。 ――やっぱ車とぶつかったのか?それにしてもここ…病院でもなさそうだし、誰かの家…だよな?  昭智はベッドから降りて、窓に近づき、カーテンを捲った。外は暗いが、住宅街が見下ろせる高さだと解る。  二年前まで、通っていた中学校も見える。 「……!?」  しかし、母校の中学を見下ろすと、違和感を覚えた。  中学の近くに、“こんな高い建物″があったかと。  いや、それだけではない。よく見ると、見覚えのないコンビニらしき看板があったり、中学校の敷地内に建物が増設していたりと、“何か″がおかしい。 ――ちょ!何?どうなってるんだ?  昭智は、カーテンをシャッと閉めた。   ――これは夢か?それとも車に跳ね飛ばされて、死んで天国にでも来たとか?天国ってマンションなの?  外に出て確認しようと思ったが、よく見れば着ていたはずシャツやズボンはなく、Tシャツにジャージのハーフパンツだ。 「俺の服、どこだ?」  バタバタと部屋を見回してると、足音が近づいてくるのが聞こえてきた。 ――誰か来る…  昭智はあたふたと、隠れる場所を探すが、部屋にそんな場所はなく、挙動不審なまま部屋のドアがガチャリと開いた。  咄嗟に拳を構える昭智。  開いたドアから入ってきたのは男性。二十代くらいの若い男性だ。  目が合う二人。 「あ……あの」  何を言っていいかわからず、昭智は混乱した顔を見せた。 「お、ああ、目覚めたのか」  男性はそう言うと、部屋の外に顔を出して「由希菜ああっ」と大きめの声で誰かを呼んだ。  名前から察するに女性なのだろうが、状況が解らない仙藤。 「なあに?」  また足音が聞こえてる。声はやはり女性だ。 「ほらー、少年!目覚めたぞ!」  男性がそう言うと、女性が顔を覗き込ませて、昭智を見るなり、眉根を寄せながら微笑んだ。 「ああ、よかった、目覚めて。何でもない?」  女性は昭智に近づき、マジマジと見てきた。  昭智は顔を赤らめた。 ――距離がちか!何だかいい匂いもするし…  話が全く見えない昭智は、両手のひらを向けた。 「えと…ま、待ってください!」  昭智がそう言うと、男性と女性は顔を見合わせた。 「すみません。俺…なぜここにいるのか、何がどうなってるか、全然解らないんですけど…」  男性は昭智の肩に手を乗せた。 「君、落ち着こうか。まず、ベッドに座ろうか。こっちも聞きたいことがあるんでね」
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