第3話(2)火と土

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第3話(2)火と土

「というわけでアタシらの出動なわけだけど……」  夜道を歩きながら、焔が自らの髪の毛をかきあげる。 「連日ご苦労さまだね、焔」  隣を歩く基が笑いかける。 「いやいや、それほどでも……あるけれどね」 「け、謙遜しないんだね……」 「え?」 「いや、君らしいと言えば君らしいか……」  基が笑みを浮かべる。 「アタシらしい?」  焔が首を傾げる。 「ああ、君らしいよ」 「……アタシらしさって何かな?」 「明るいところだよ」 「髪の毛が?」  焔が再び髪の毛をかきあげる。 「いや、違うよ……」 「流行とかに詳しいところ?」 「まあ、それもそうかもしれないが、少し違うかな……」  基が首を左右に振る。 「それじゃあ、なに?」 「性格だよ」 「性格?」 「そう、心根とも言うのかな……」  基が焔の胸の辺りを指し示す。 「自分ではよく分からないなあ」 「そうかもしれないね、ただ……」 「ただ?」 「君の持つ、その生来の明るさに皆救われているよ」 「ええ?」  焔がやや驚く。 「そんなに驚くことかな?」 「い、いや、考えてみたこともないからさ……」 「まあ、何事でも自覚するのは難しいものさ」 「う、うん……」  焔が腕を組む。 「ふふっ……」 「……でもさ」 「うん?」 「皆が救われているのは大げさじゃない?」 「いやいや、大げさじゃないよ」  基が右手を左右に振る。 「そうかな?」 「そうだよ」 「金ちゃんにはいつも小言言われているよ?」 「金が焔のことを気にかけている証さ」 「栞ちゃんにはいつもうるせえとか言われているよ?」 「栞なりの照れ隠しさ」 「泉ちゃんは誰にも対しても優しいよ」 「泉も焔には特に心を許しているさ」 「そ、そうかな?」  焔が自らの後頭部を撫でる。 「そうさ」 「ふ~ん……」 「皆、なにかと訳ありだからね、焔の明るさには助けられているよ」 「そういえば……」 「ん?」 「似たようなこと、昨夜、栞ちゃんにも言われたっけ……」 「へえ、栞が……」 「うん」  焔が頷く。 「皆、焔に対して、同じようなことを思っているというわけだ」 「ほう……」 「感謝しているんだよ」 「……」  焔が基のことをじっと見つめる。 「どうかしたかい?」 「基ちゃんはどうなの?」 「ん?」 「アタシのこと、どう思っているの?」 「……それについての発言するのは避けよう」 「ええ、なんでよ」 「ちょっとくらい秘密があったっていいものさ」 「え~」  焔が唇を尖らせる。 「さて……」 「ん? どうかした?」  焔が尋ねる。 「ここら辺だよ、旭たちが言っていた場所は……」 「ああ、そうか……堀川小路か……」  焔が周囲を見回して確認する。 「人はいない……もう夜だからそれも当然か」 「……ここってさ、人の手で造ったんだって?」 「ああ、そうだよ。この京が造営されるに当たって、開かれたんだ」 「何の為にそんなことを?」 「主に物資の運搬用にだね」 「ふ~ん、さすが、基ちゃんは物知りだね」  焔が感心する。 「別に大したことじゃないさ」  基は謙遜する。 「アタシは考えたこともなかったよ」 「ぼくらはこの辺にはあまり来ないじゃないか」 「それはそうだけどさ……それにしてもすごいよ」 「いやいや、泉の方が詳しいさ」 「そう?」 「ああ、泉は道の幅までちゃんと知っているからね」 「道の幅まで?」 「幅四丈、東西に二丈ずつ加え、計八丈だそうだよ」 「へ~泉ちゃん、もしかして測ったのかな?」  焔の言葉に基は微笑む。 「いや、延喜の式に書いてあるそうだ」 「ああ、ちゃんと目を通しているんだ……」 「泉らしいね」 「まったくだね、アタシはそんなところまで見なかったよ」 「ぼくもだ……ん!」 「おっ⁉」 「……!」  川の中から、大きなタコのようなものが現れる。焔たちは驚く。
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