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第5話(4)怪異の鎌
「あっ⁉」
黄色い発光体はフラフラと浮遊している。大体成人男性くらいの大きさだ。
「な、なに⁉」
新聞部が軽くパニック状態になる。
「お、おい……」
「せ、先生⁉」
新聞部が俺に対して視線を向けてくる。
「お、おう……」
「な、なんですか、あれは⁉」
「え、えっと……」
俺はなんと答えたらいいものかと考えてしまう。
「村松っち……とりあえず落ち着かせたら?」
雷電が俺の近くに来て小声で囁く。
「そ、そうだな……」
「先生!」
「ま、まあ、ちょっと落ち着こうか」
「落ち着いてなどいられませんよ!」
「それもそうだな……」
「村松っち、納得してどうすんのさ……」
雷電が呆れた視線を向けてくる。
「え、ええっと……いいか、ジャーナリストたるもの、目の前の事象を冷静に見極めないといけないぞ? パニック状態になってはお話にならない……」
「はっ⁉ そ、それは確かに……先生、ご指導ありがとうございます!」
幾分かは落ち着きを取り戻した様子の新聞部は落としたスマホを拾い上げて、発光体を撮ろうとする。雷電が声を上げる。
「む、村松っち! 何を煽っちゃってんのさ! あれを撮影されるのはマズいよ!」
「はっ⁉ し、しまった、久々に頼られたような感じがしたから、ついつい教師っぽいことを言ってしまった……!」
「なにやってんの……!」
「これを撮影しなくては、ジャーナリスト魂の名折れ!」
「そこは折れてくれや……」
「……!」
スマホを構えようとした新聞部の首筋に、紅蓮が鋭い手刀を入れる。新聞部はその場に崩れ落ち、紅蓮はその体を支えてやり、ゆっくりと床に横たえる。
「ふう……」
「ぐ、紅蓮……?」
俺は首を傾げる。
「恐ろしく速く鋭い手刀を入れましたね、私でなくては見逃してしまうところでした」
疾風が眼鏡をクイっと上げながら、淡々と呟く。
「しゅ、手刀……」
「龍虎っち……」
俺と雷電は戸惑いの視線を紅蓮に向ける。
「な、なに、ちょっと引いてんだよ! とりあえず大人しくさせておくしかねえだろうが!」
紅蓮が声を上げる。
「カタギの子にそれは引くよ……」
「オレだってカタギだ!」
「そうだっけ?」
雷電が首を捻る。
「ケ、ケンカ売ってんのか?」
紅蓮が若干顔を引きつらせる。
「な~んて、冗談、冗談♪」
雷電が笑みを浮かべる。
「ったく……おい眼鏡、お前さんの出番だぜ」
紅蓮が疾風を促す。
「そのようですね……新聞部の方とともに、この場から少し離れていてください……」
「はいよ。村松っちゃん、この子の肩の方を持ってくれ……」
「あ、ああ……」
俺が新聞部の肩を持ち、紅蓮が両脚を持って、部室の隅の方へ移動する。それを確認した疾風が声を上げる。
「行きます……『変化』!」
疾風がかまいたちの怪異に変化する。
「……!」
黄色い発光体がそれに反応する。
「やっぱり怪異同士か……オレの見立て通りだな」
新聞部を再び床に横たえた紅蓮が満足気に頷く。
「………!」
「!」
「うわっ⁉」
黄色い発光体が一層発光する。あまりの眩しさに俺は目を瞑ってしまう。
「……」
「……あっ⁉」
少し間を置いてから、俺が目を見開くと、疾風がうずくまっている姿が目に入った。
「ちっ、やられたか……」
「ど、どうやって⁉」
俺は舌打ちする紅蓮に問う。紅蓮は両手を広げて首を傾げる。
「さあな?」
「さ、さあなって……」
「眩し過ぎたから見逃しちまったよ」
「そ、そんな……」
「恐らくだけど……電撃を食らわせたんじゃないかな」
「見ていたのか、雷電⁉」
「い、いや、予想だけどね……」
「あの痺れ具合……金剛の言う通りかもな」
疾風の様子を見ながら、紅蓮が頷く。俺が再び問う。
「だ、大丈夫なのか?」
「なに、ちょうどいいハンデだろ。まあ見てな……」
「……」
「………」
体勢を立て直した疾風と発光体が見つめ合う。
「…………!」
「動いた!」
発光体が動いたことが俺の目にも分かった。紅蓮が呟く。
「遅えよ……」
「……‼」
「……⁉」
疾風が発光体と交差したかと思うと、発光体が霧消する。疾風の鎌が切り裂いたようだ。
「あっ……⁉」
「かまいたちのスピードの方が上だったな……」
紅蓮が笑みを浮かべる。
「……ざっとこんなものです」
元の姿に戻った疾風がズレた眼鏡を直しながら呟く。
「よ、良かった……って、この子はどうしようか?」
俺は新聞部を指し示す。雷電が新聞部のスマホをなにやら手際よく操作する。
「ウチに任せといてよ……ほい、これで大丈夫♪」
「そ、そうか……?」
結論として、同好怪の活動については当たり障りのない紹介記事だったが、何故か、俺と思われる人物が夜の部室棟で怪しげな光を放っているような謎の画像が出回った。なにが大丈夫なんだ、なにが。
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