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第6話(2)活動被り
「オ、オカルト研究会?」
「そうよ! ……いえ、そうです」
オカルト研究会と名乗ったおかっぱ頭は教師である俺の姿を確認して、言葉遣いを敬語にあらためる。
「なんの用だ?」
「なんの用だもなにも……」
オカルト研究会は部室をきょろきょろと見回す。
「どうした?」
「い、いえ、ほとんど何もない部室なんだなと……」
まあ、会員たちの体一つあれば済む活動内容だからな……などということはややこしくなりそうだから答えないでおくが。
「私物など置かれては困るからな」
「な、なるほど……」
「気は済んだか?」
「い、いいえ!」
オカルト研究会は首をブンブンと左右に振る。
「……なんだあ? てめえ……」
紅蓮がゆるりと席を立ち、オカルト研究会に顔を近づける。
「ひっ……」
オカルト研究会が怯む。学園内でも有名な不良に睨まれたら、典型的なオタク少女――若干失礼ではあるが、そういう形容がしっくりくる――はビビってしまうのもやむを得ない。まさに蛇に睨まれた蛙である。いや、この場合は龍に睨まれた狸、もしくは虎に睨まれた兎か。それはまあ、別にどっちでもいいか。
「……てめえ、あれか?」
「あ、あれ?」
「殴り込みってやつか?」
「い、いや、そういうわけじゃ……」
オカルト研究会が首を振る。
「そのわりには随分な勢いで飛び込んできたじゃねえかよ」
「え、えっと……」
「そっちがその気なら……こっちにも考えはあるぜ」
「か、考え?」
「こういうこったよ……」
紅蓮は両手を組んで、指の骨をポキポキと鳴らす。
「ひ、ひえっ⁉ ぼ、暴力反対‼」
オカルト研究会が両手を挙げて降参の意を示す。
「ちっ、なんだよ、つまらねえなあ……」
紅蓮は舌打ちして、オカルト研究会からすっと離れる。教師の目の前で一体何をするつもりだったんだお前は。
「え、ええっと……」
オカルト研究会がなかなか二の句を継げぬようで困っている。出鼻を挫かれてしまったのだからやむを得ない。
「ねえねえ!」
「うわっ⁉」
今度は雷電がオカルト研究会に顔をグイっと近づける。懐への入り方がもはや、一流格闘家のそれだ。一流格闘家を間近で見たことはないが。不意を突かれたオカルト研究会は顔をやや逸らしてしまう。
「あ~そのリアクション、傷つくな~」
雷電が悲しげな表情を浮かべる。
「ご、ごめんなさい……」
オカルト研究会が視線を元に戻す。雷電がパッと笑顔に戻る。
「RANE交換しない?」
「え……?」
オカルト研究会が首を傾げる。
「RANEやってないの?」
「い、一応は……」
「それじゃあ交換しようよ」
雷電がスマホを取り出す。
「な、何の為に?」
オカルト研究会が尋ねる。
「え? 何の為って……」
「い、いきなりそんなことを言われても……」
「……理由要る?」
雷電が小首を傾げる。
「ええ……?」
「どうなの?」
「だ、だって、こうしてお話するのは初めてですよね?」
「だからだよ」
「だから?」
「そ。お近づきのしるしにね。これをきっかけに仲良くなれば良いじゃん♪」
「う、うおっ、眩し!」
雷電の満面の笑みに対して、オカルト研究会は顔を覆う。
「あれ? どうしたの?」
「こ、これが学園一の陽キャ……オーラが半端ない……」
オカルト研究会がぶつぶつと呟く。
「ねえ、交換しようよ~」
「は、はい……」
オカルト研究会もスマホを取り出し、RANEを交換する。
「ふふっ、ありがとっ♪ ……ニヤり」
! 人懐っこい笑みを浮かべた後、一瞬だけど悪そうな笑みを見せたぞ。『ニヤり』って、口に出しているし。俺でなかったら見逃しているところだ。なんとなくおっかないから、それについてはつっこまないでおこう。
「……さて、特に御用が無いようでしたら……」
すくっと立ち上がった疾風が眼鏡のブリッジを抑えながら、オカルト研究会に近づく。
「え?」
「このままお帰り頂けますでしょうか?」
「い、いいえ! そういうわけにはいかないわ!」
「では何の用なのでしょうか?」
疾風が冷静に尋ねる。
「……そ、そもそもねえ、被ってんのよ!」
「被っている?」
疾風が首を傾げる。
「そ、そうよ! 『同好怪』ってなんだかよく分からないけど、怪の字を使っているっていうことは、オカルト方面の活動をしているんでしょう⁉」
「ほう……思っていたよりも鋭いですね」
疾風が眼鏡の縁を触りながら呟く。オカルト研究会が勢いづく。
「図星ね⁉ そういうのはオカルト研究会で間に合っているのよ!」
「学園の方からは許可されていますので……」
「納得がいかないわ! こちらの会費が削られてしまうかもしれないのに!」
「ふむ……」
「そちらの活動停止を要求するわ!」
「それはまた……随分と横暴ですね……」
疾風が苦笑する。
「どうなのよ⁉」
オカルト研究会が迫る。
「穏便に済ませようと思いましたが……気が変わりました。放課後、こちらにまたいらしてください。面白いものをご覧に入れましょう」
疾風が笑みを浮かべる。眼鏡がキラりと光る。
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