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あの男の勝ち誇ったような顔が思い出される。――どうだ。氷堂秀幸。貴様には手に出来ない権利をおれは手にしているのだ、と。
他のひとと呼び名が被るのが嫌だ、という理由で、きみは、ぼくのことをこーちゃんと呼ぶ。
世界でたったひとり。ぼくのことをこーちゃんと呼ぶ、愛おしい女神。
きみのためにならばぼくはどんな悪事も働いてみせよう。かりかりのベーコンを敷いた目玉焼きを皿に盛りつけ、いったんカウンターに置くとぼくはエプロン姿のまま、きみに近づいて頬に口づけた。
なによりも幸せを感じられる一瞬。
氷堂秀幸。貴様がどれほど優秀な人間であろうとも。結婚とは、生活だ。
朝早く、彼女よりも先に起きて、朝食の支度が出来ようか? ――朝、通勤前にごみを出しておくことが出来るか。間に合うように。
部屋をきちんと片付けて、コードレス掃除機で部屋を常に清潔にし、洗濯物も、炊事も。おれのように出来てたまるか。
NY帰りだかなんだか知らないが、どうせ、貴様のことだろう。ろくに自炊なんかもしないで、筋トレばかりしている、プロテインとコンビニ食中毒風情が。貴様の出る幕はない。
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