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♯01. 帰ってきたあいつ R
「あいつ帰ってくるんだって」
「あいつって?」
エレベーター内での会話は誰にも筒抜けだ。
そしてその会話に耳をそばだてている自分がいる。
あいつといえば、……決まっている。
「決まってんだろ。氷堂だよ。氷堂。あの、百社もの赤字経営を黒に変えた男」
うちの会社は自社ビルで、このビルに出入りするのはうちの会社の社員か、あるいは出入りの業者のみなので、比較的、廊下やこういったエレベーター内で込み入った話をする連中が後を絶たない。
心境は、複雑だった。
ちん、と音が鳴り、ちゃんと、先にひとが下りるのを確かめてからボタンから指を離し、周囲に頭を下げてから自分は最後に降りる。……そういえばあいつも、マナーにはうるさい男だったな。
いまどき珍しい体育系でガッツのある男。
八年ぶりに会うあいつは、……いったいどんな顔をしているだろう。
* * *
「花谷って案外、おっぱい、おっきいのな」
四つん這いで背後から求められるあたしの乳房を揉みしだく氷堂はそんなふうに言う。――仕事が出来る男は大概アレも上手。そんな決まり文句が脳内で爆ぜる。
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