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ぼくに、チャンスをくれないか?」
突然の提案に目をやや見開かせる。開いた花を……見てみたい。
「おれなら、おまえを、愛しに愛しぬいてやる。
惚れた女にしか見せない、シックスパックも見せてやれる」
おれの冗談にちょっとおまえは笑った。「マリリンにしなよ」と。
「駄目だ」おれは言い切った。「相手は、おまえじゃなきゃ駄目なんだ。花谷。
とにかくおれにチャンスをくれ。
一晩過ごして、それで駄目なら、……諦める」
「氷堂……」
「おまえならとっくにおれの気持ちに気づいていると思っていたさ。……だろ?」
「氷堂。……あたし。ひどいことをしようとしているのかもしれない。
でも、こころの整理がつかないの。
結婚したら子どもも欲しいし、……みんなが手にしているような幸せを手に入れたいって思っている。
なのに、――逃げたい」
おれは迷わずおまえを抱きしめてキスをした。初めてのおまえとのキスはすこし、塩辛い味がした。
おれはおまえの涙を拭い、
「おまえとならば、地獄にだって一緒に落ちてやるよ。――緋名子」
それが始まりだった。
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