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「瑠璃さん!」
ほどなくして、改札口からプラットホームに続く階段を、早瀬が急いで下りてくるのが見えた。
「早瀬さん!」
「ご無事ですね。良かった…」
息を切らしながらも、瑠璃の顔を見てホッとしたような笑顔を浮かべる。
きっとここまでずっと走って来たのだろう、額には汗が浮かんでいた。
「あの、早瀬さん。どうかしたんですか?いったい何が?」
「くわしいことはあとで。まずはご一緒にホテルまで…」
そこまで言って早瀬は、急に口をつぐみ、鋭い視線でうつむく。
(早瀬さん?)
瑠璃も静かに様子をうかがう。
早瀬は、ふり返りはしないものの、自分の背後を気にしているようだった。
やがて、二人の横に電車が到着する。
降りてきた人が続々と階段を上がるなか、早瀬が瑠璃に小声でささやく。
「電車に乗ってください」
瑠璃は戸惑いつつも、早瀬と一緒に目の前の車両に乗る。
アナウンスの後、ドアが閉まる…とその瞬間、失礼!と早瀬が言うやいなや、瑠璃の肩を抱いて電車を降りた。
(え?なに?)
呆然とする瑠璃の前で、電車がゆっくり動き出した。
早瀬は、じっと通り過ぎる電車を見ている。
瑠璃もそちらに顔を向けた時だった。
窓にぴたっと張りついて、悔しそうな表情でこちらを睨んでいる男性と目が合う。
(何かしら?あの男性…)
「やっぱりか…」
隣で早瀬がひとり言のように呟く。
「早瀬さん?あの…」
「急ぎましょう」
瑠璃の質問を遮り、早瀬は瑠璃の肩を抱いたまま階段を上がり始めた。
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