ピンチ

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無言のままホテルに向かい、最上階の総支配人室に入ると、早瀬はホッと息をついて瑠璃から手を離す。 「早瀬、どうだった?」 すぐさま一生が近づいて来た。 「はい。やはりあとをつけられていたようです」 (えっ!つけられたって、私が?どういうこと?) 瑠璃は驚いて早瀬と一生の様子を見守る。 「そうか、やっぱり…どんなやつだった?」 「身長は160㎝ほど。黒のジャンパーにデニム、茶色の帽子をかぶったメガネの男です」 あの時こちらを睨んでいた男の特徴だった。 「電車に乗ると見せかけて巻きました」 「分かった、ご苦労」 そう言ってデスクに戻ると、一生はため息をつきながら椅子にドサッと腰を下ろす。 「このあとの対応をどうするか…顧問弁護士に相談した方がいいかもな」 じっと一点を見すえて何かを考え始めた一生に代わり、早瀬が瑠璃に、どうぞとソファを勧める。 とにかく事情を知りたかった瑠璃は、素直に従った。 「早瀬さん、私、尾行されていたのでしょうか?」 口に出してみると、とたんに怖くなってきた。 「その可能性があります」 「そんな…どうして?」 声がかすれてしまう。 早瀬は自分のデスクに行き、雑誌を手に戻ってくるとテーブルに置いた。 「これは?」 「読んでみてください」 週刊誌?と思いながら、広げられたページに目を走らせる。 そのとたん、瑠璃は息を呑んだ。 センセーショナルな見出しには、 『若きホテル界のプリンス、和服美人と熱愛!結婚へ!』 とある。 そしてかろうじて目元を隠してあるだけの、一生と瑠璃の写真。 「こ、これ…フォトコンテストの表彰式の?」 「はい、そのようです。あの日はマスコミを呼んでいましたから」 「じゃあ、その時にこの週刊誌のカメラマンが?」 さっき電車で見た男を思い出す。 「いえ、この週刊誌は呼んでいません。おそらく、あの場にいたカメラマンから買い取った写真だと思われます」 「そんな…それにこの写真、本当は私と総支配人の間に古谷さんがいましたよね?」 「はい。おそらく加工されています」 瑠璃はため息をついた。 もう一度記事に目を落とし、読み進めていくと、ますます目を見張る。 記事には、ホテルFの総支配人が、大病院の令嬢と極秘結婚!ホテル界のイケメンプリンスは多くの女性客の反感を買い、予約はキャンセル続き、もはや評判も地に落ちる、とまで書かれていた。 「何てこと…よくこんなでたらめな」
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