ピンチ

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ひとまずオフィスに出社しますと瑠璃が言うと、早瀬が、お送りしますと立ち上がった。 廊下を真っ直ぐ進み、エレベーターのボタンを押すと、ここで大丈夫ですと瑠璃は早瀬に声をかける。 「いえ、何かあるといけませんし、企画広報課までご一緒します」 こちらに顔を向けている早瀬の後ろにエレベーターが到着する。 扉の窓から中に乗っている男の顔が見え、瑠璃はハッと息を呑んだ。 電車で巻いたはずの、あの男だった。 ん?と早瀬がふり向くのと、エレベーターから降りてきた男が拳をふり上げるのが同時だった。 ガツッという固い音とともに、早瀬は床に倒れ込む。 「早瀬さん!」 駆け寄ろうとした瑠璃は、あっという間に男に腕を掴まれ、廊下を引っぱっていかれる。 「やめて!離して!」 瑠璃の声が聞こえたらしく、近くの客室からハウスキーピングのスタッフが顔をのぞかせた。 そのとたん、男はそのスタッフの手を掴んで廊下に引っぱり出すと、瑠璃の背中をドンと押して部屋の中に入れた。 勢い余って転んだ瑠璃は、パタンとドアが閉まる音と、ニヤリとこちらを見下ろす男の顔に絶望して、サーッと血の気が引いた。
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