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「こ、来ないで…」
喉に張りついたように声が上手く出せない。
瑠璃は、必死に後ずさりながら、心の中で助けを呼ぶ。
(誰か、助けて…早瀬さん、一生さん!)
「へっ、やっとお会い出来ましたな、お嬢さんよ。あの写真、結構高く売れるんだ。もうちょっと稼がせてもらうぜ」
そう言ってポケットからカメラを取り出し、素早くシャッターを何度も切る。
「やめてっ!」
瑠璃は慌てて顔をそむけた。
「そんなことしても無駄だぜ。どうせ顔はモザイク入れるしな。そうだな、実は高級ホステスやってるって肩書きはどうだ?和服美人ってことで、信憑性あるだろ?ますます売れるだろうな」
またしてもカメラを向ける男に、いや!と瑠璃が叫んだ時だった。
「開けろ!ここを開けるんだ!」
誰かが激しくドアを叩く音がした。
「早くしろ!早瀬、マスターキーを!」
(…一生さん!)
瑠璃は力を得たように、ちらりと男の様子をうかがう。
ドアの方に気を取られているようだ。
(今よ!)
瑠璃は自分をふるい立たせると、男に体当たりした。
うわっとよろめいた男の横をすり抜けると、ドアへと走る。
ノブに手をかけて開けようとしたその瞬間、後ろから男に腕を引かれ、瑠璃はまた床に倒れ込んだ。
「瑠璃!」
誰かが自分を呼ぶ声と、男が突き飛ばされて壁に打ちつけられる鈍い音がした。
「大丈夫か?ケガは?」
抱き起こされ、顔をのぞき込まれた瑠璃は、その心配そうな眼差しと、温かくて力強い腕に安心して、一気に涙を溢れさせた。
「い、一生さん…」
「すまない、本当にすまなかった。もう大丈夫だ。大丈夫だから」
ギュッと抱きしめられ、何度も頭をなでられる。
瑠璃は、一生の腕の中で身体を震わせながら、しばらく泣き続けた。
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