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「今後一切こちらに関する記事を載せぬよう、直ちに警告文を送るように。今すぐ警察に届けてもいいくらいのことを、すでにされているのだからな」
一生は厳しい口調で電話の相手にそう告げる。
総支配人室に戻り、しきりに早瀬に謝られ、瑠璃はようやく落ち着きを取り戻していた。
警察を呼んで男を突き出す、という一生に、今はまだやめた方がいいのでは、と瑠璃は止めた。
ホテルに警察官が来て、あれこれと事情を聞かれると、妙な噂が一気に広まるだろう。
ましてや週刊誌にあんな記事が出たばかりだ。
ホテルに悪い印象が植えつけられてしまうかもしれない。
そう言って説得すると、ようやく一生は諦めた。
ただ、出版社をいつでも訴えられるように準備はしておく、と言って、顧問弁護士に電話をかけた。
警告文をFAXで送ると、すぐに返事が来たようで、あの男は出版社とは関係なく、ただ写真を買い取っただけだということ、男の身元もよく分からないが、今後一切関係を切り、写真も2度と買い取らないとのことだった。
今出来ることはこれくらいか、と言って、一生は悔しそうにうつむいた。
「あの、私はもう大丈夫ですから。どうかお気になさらず…」
瑠璃がたまらずそう声をかけると、一生は顔を上げ、じっと瑠璃を見つめた。
「いや、少し間違えば、取り返しのつかない事になるところだった。あなたをこんな危険な目に遭わせてしまい…本当に申し訳なかった」
一生と早瀬は、深々と頭を下げる。
「いえ。お二人は私を助けてくださいました。こちらこそ、ありがとうございました」
「…俺と関わらなければ、こんな目に遭わずに済んだんだ」
小さく呟く一生の言葉が聞き取れず、瑠璃が首をかしげていると、一生は顔を上げて瑠璃に言った。
「申し訳ないけれど、今日はここに泊まってもらえないだろうか?」
「え、ここに、ですか?」
「ああ。出版社によると、男は身元も連絡先も分からないらしい。今日のところは解放してしまったし、性懲りもなく、またあなたに危害を加えるかもしれない」
想像して、瑠璃は思わず体を固くする。
「何より、俺が心配でたまらない。どうか今日は、ここにいて欲しい」
そう言って頭を下げる。
瑠璃は、少し考えてから頷いた。
その方が自分にとっても安心だと思った。
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