ピンチ

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やがて、ふうと一区切りついたらしい早瀬が、すぐ右隣の瑠璃に話しかけた。 「瑠璃さん、タイピングがとても速くて静かですね」 「え、そうですか?」 「ええ。それに長い指できれいに打っていて、まるでピアノを弾いているようです」 「そ、そんなふうに言われるなんて。なんにも考えずに普通に打っているだけですけど」 瑠璃がどぎまぎしていると、プルルとデスクの内線電話が鳴った。 早瀬が受話器に手を伸ばしたが、電話は瑠璃の右側にあり、いつもより遠い。 失礼…と瑠璃に声をかけながら身を乗り出した時だった。 「はい。総支配人室でございます」 瑠璃がひと足早く受話器を取り、電話に出た。 「はい、はい、少々お待ちくださいませ」 そう言って保留音を流すと、一生に声をかける。 「総支配人、宿泊部の田口部長からです。明日お見えになるVIPのお客様について確認したいことがあるそうです」 「あ、は、はい。かしこまりました」 一生は、思わぬ瑠璃からの言葉に姿勢を正して返事をする。 瑠璃が内線電話の1番のボタンを指差して早瀬の顔をうかがうと、うんと早瀬は頷いた。 瑠璃はそのボタンを押すと、一生のデスクの電話がプルッと鳴ったのを確認して受話器を置いた。
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