出会い

4/6
前へ
/232ページ
次へ
「お客様、大丈夫ですか?」 声をかけられ、瑠璃は改めて長身の男性を見上げた。 ホテルのスタッフなのだろうか。 身をかがめるように瑠璃の顔を優しくうかがい、落ち着いた雰囲気で瑠璃の言葉を待っている。 「あ、はい。大丈夫です」 そう言ってはみたものの、瑠璃は自分の顔がこわばったままなのをどうにも出来ずにいた。 和樹の強い口調が思い出される。 (あとで何を言われるのだろう…) そんな瑠璃の様子を見て、男性がそっと背中に手を添えてきた。 「少し座りましょうか。あちらのソファへどうぞ」 うながされて、瑠璃は大きな柱の後ろにあるソファに腰を下ろす。 そこはロビーにいる人達からは死角になっていた。 何度か深呼吸を繰り返すうちに、ようやく気持ちが落ち着いてきた。 瑠璃は、片膝をついて自分の様子を見守ってくれている男性に頭を下げる。 「あの、助けて頂いて本当にありがとうございました」 「いえ、大したことでは。それよりこのあとどうされますか?お部屋を用意致しますので、少し休まれてはいかがですか?」 「えっ?いえ、そんな。大丈夫です。このまま家に帰りますので」 「そうですか。では車でご自宅までお送りします」 「ええっ?!車なんて、そんな、まさか。一人で電車で帰れます」 「…そうですか?」 意外そうに呟いたあと、男性は少し考える素振りをしながら遠慮がちに口を開く。 「あの、大変失礼なのですが…」 「はい。何でしょうか?」 「お客様は、和樹…いえ、あの、澤山 和樹様の婚約者の方ですよね?そのような名家のご令嬢を電車で帰らせるようなことは…」 「いえ!あの、大丈夫です」 言葉を遮るように瑠璃は立ち上がり、もう一度深々と頭を下げた。 「この度は本当にありがとうございました。それでは失礼致します」 あの!と呼び止める声にかまわず、瑠璃は急いで2階への階段を上がった。
/232ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1749人が本棚に入れています
本棚に追加