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電車のドアにもたれながら、ぼんやりと窓の外を見つめる。
これからどこかに出かけるらしいカップルの、楽しげな会話が聞こえてきた。
窓ガラスに映る乗客に目を向けると、スーツ姿の男性やきれいな装いの女性に混じって、制服姿の高校生カップルもいる。
(みんな、どうやって恋人同士になったのだろう。おつき合いの始め方って、どこで教わるのかしら?)
そんなセリフを、もし誰かに言ったら笑われてしまうだろうことを瑠璃は知らない。
小学校から大学まで一貫した名門の女学院に通い、大学卒業後もその大学の総務課で事務の仕事をしていた。
仕事といっても、結婚前の“社会勉強”や“花嫁修業”といった感じで、2年ほど働けば親の決めた相手と結婚する…
それが瑠璃の前に敷かれたレール、決められた人生だ。
(狭くて息が詰まりそうな小さな世界…)
うらやましがられることもある境遇だが、瑠璃にとってはそうではなかった。
(何も考えずに受け入れられたら、もっと楽になれるのかな)
同級生は、一度も働かずにお嫁に行く人が大半だし、瑠璃の母はもちろん、姉の藍も、同じ大学を卒業後すぐに結婚した。
4代続く総合病院の院長である父が姉に薦めた結婚相手は、大学病院に勤める将来有望な外科医。
いずれは、父の病院の跡を継ぐことになるだろう。
そして姉は、結婚4年目にして待望の第一子を妊娠中。
優しくてかっこいい旦那様の隣で幸せそうにお腹をなでる姉を見ていると、自分もそうした方がいいのかなという気がしてくる。
(仕事を辞めて、今すぐ親の決めた相手と結婚する…それがいいのかも)
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