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窮屈な世界を飛び出して、自分の足で生きていこうとしたはいいけれど、世間から見ればほんのおままごと程度。
結局上手くいかずに自信を失くしつつある今、もとの世界に戻るしか道はないのか。
(気が済んだでしょ?やっぱりあなたは決められた道を行くのが一番いいのよ)
窓ガラスに映る自分を見ていると、まるでもう一人の自分にそう言われているような気がしてきた。
そうなのだろうか。そうした方がいいのだろうか。
(あなたは分かっていない。決められた結婚相手がいて、将来何不自由なく暮らせることがどれだけ恵まれているかってことを)
確かにそれはそうだ。
所詮、ぜいたくな悩みでしかないのだ。
瑠璃と和樹は、母親同士が女学院時代の同級生ということもあり、昔からお互いをよく知っている。
そして、いつの間にかなんとなく、将来二人は結婚すると家族は思い込むようになっていた。
和樹は、大手旅行会社を初めレジャー施設も経営する大企業の御曹司。
母親譲りの丹精な顔立ちとスタイルで、お見合いの話も多くあるらしい。
それを断っているのは、おそらく和樹自身も瑠璃との結婚を望んでいるからだろう。
瑠璃にとっても、和樹は結婚相手として申し分ない。
それでも瑠璃は、決められたレールに乗ることに抵抗があった。
仕事をして外の世界を知りたい、自分が決めた好きな人と結婚したい。
そう思って毎日を過ごしていた。
けれど、それなら和樹にもそう伝えて、“なんとなく決められた婚約者”をきっぱり否定すべきなのだ。
それをせず、どっちつかずの態度でごまかし続けているから、今日もあんなふうに和樹を怒らせてしまった。
そう、全て自分が悪いのだ。
瑠璃はうつむくと、自己嫌悪でため息をついた。
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