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シカゴへ
「……ひまり……陽毬……」
その声にまどろんだ意識が少しずつ鮮明になっていく。眼を開くとそこに見えるのはいつもの天井と違う。ここは……?
「……陽毬、起きて。もう直ぐシカゴに到着よ」
ハッと飛び起きて声の方を振り返ると、母の優しい笑顔が見える。そうだ、ここは飛行機の中……。
「あっ、ママ。おはよう。もう着くの?」
母が大きく頷いている。左を振り返ると丸い窓の外には白銀の世界が広がっていた。
「わぁ、凄い、真っ白!」
まだ十歳だった私は、その時アメリカのシカゴに向かう飛行機の中に居た。着陸間近のその窓からは整然と区画された住宅地が見える。でもその景色は雪で真っ白に染まっている。
「シカゴは大雪だって。パパ、空港に迎えに来てくれるかな?」
今回の母と二人の冬休み旅行はシカゴに単身赴任中の父に会うのが目的で、久しぶりの家族三人のイベントに私はワクワクだった。
その時、CAさんが私達の席の横で立ち止まった。
「田所先輩、フライトはどうでしたか?」
「ああ、加奈さん。うん、快適だったわよ。貴女のチームの動きもとても良かったわ。もう私が教える事は何も無さそうね」
「先輩にそう言って頂けると嬉しいです」
実は母はこの航空会社でCAをやっている。今日は休暇をとって乗客としてこのフライトに搭乗しているの。
「陽毬ちゃん、最後までフライト楽しんでね」
「うん、ありがとう」
私は大きく頷いた。
『皆さん、成田からの長旅、お疲れ様でした。当機は間もなく、シカゴ・オヘア国際空港へ着陸します』
外を見るとそこは大きな湖の上空だった。その湖はまるで海の様に白波が立っている。
「ミシガン湖よ。シカゴはこのミシガン湖岸で発展した街なのよ」
広大な湖を眺めている私の背後から母の声が聴こえた。
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