熱気

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 裸の和男は心の中で決意した。 「今日こそ、あの針一周だ!」  和男はひとり、サウナの中だった。時刻は午後2時。日課になったジム通い。仕上げにサウナでさっぱりするのが常だった。和男がふと目線を下に落とすと腹がじゃまで見通せない。思わず下っ腹に手を添え持ち上げてみた和男。手を離せば巨大なコンニャクがぶるんとふるえたようだった。  太田和男は58歳。子供は独立し今や夫婦二人の生活だ。和男は半年前に長年勤めた大手メーカーを早期退職で辞めていた。と言っても何かやりたいことがあったわけじゃない。会社に居づらくなったのだ。和男は入社以来ずっと経理畑だった。若い頃から小太りで文字通り腰が重かった和男。人や製品との関わりより数字相手の職場は天職だった。ところが、昨今の急速なIT化が和男の仕事を奪い、会社で居場所がなくなった。  特にこれと言って趣味がない和男は退職後時間を持て余す。やがて、家でダラダラ、ゴロゴロ、妻のひんしゅくを買っていく。今では服の上からでも腹周りのだぶつきが手に取るように主張する。
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