16.デジャヴ

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 僕はもう、この時点で諦めの境地だった。身ひとつでこの国へ来たのだ。  助けに来てくれそうなあてもなく、同じ馬車に乗っていた人たち以外は誰も僕のことを知らない。これでまだ諦めるなというのは、無理な話だ。  きっとあの魔導具は魔力を測っていたのだろう、僕だけが引っかかるとすればそれくらいしかあり得ない。はー、これは奴隷行きかな? 確かディルフィーも奴隷制度は禁止されているはずだけど、闇なんて……どこにでもある。ああ、痛いのは嫌だな。  ほんと、先日から散々だ。セレスはどうしているだろう。  ロディー先生がいるんだからもう全快してピンピンしているはずだ。僕のことを少しくらいは気にしてくれるといいな〜とか、自分から離れたくせにずるいことを考えちゃったり。  きっと僕がいなくなったことに気づいてもいない。いや、もう一週間以上経ったし、もし治療院に顔を見せていたら気づくのかな。    不可解なことに、セレスはやけに僕に対して執着してくれていたみたいだけど、会わなくなればその気持ちも時間とともに薄れるのが普通だ。  だから忘れるまでの間くらい、会いたいとか思ってくれていたら……僕の失恋もちょっとは報われる。  数日かけて不自由な体勢で体中痛くなりながら到着したのが、いま目の前にある貴族の住むようなお屋敷だった。ぱっと見たかんじセレスの家よりも大きい。  まぁそうか。奴隷(仮)を手に入れようとするなんて頭のおかしい特権階級くらいだろう。  僕は足枷だけ外され、ぼうっとしたまま屋敷の中へと引っ立てられるように歩かされた。昼間はずっと荷物の中に隠されていたせいで、日差しが目に痛い。そして暑かった。  それどころではないから意識していなかったけど、季節は夏本番。しかもディルフィーはアクロッポリより温暖だと聞いたことがある。  横目に見た庭はお粗末というか、広いだけであまり手入れされているようには見えない。しかし建物の中に入ると、素人目にもまぶしいくらいに綺羅びやかな――悪くいえばゴテゴテとした装飾の多い内観だった。
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