210人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
僕の知る一軒家とは規模がぜんぜん違う。しいて言えば、数十人住んでいた孤児院と同じくらいの規模感だ。それをすっごく立派にした感じ。
綺麗な庭園もある。孤児院では庭で食料の野菜を育てていたから雑然としていたけど、ちゃんとお花が咲き誇っていて、庭師がいます! というのが伝わってくる。
貴族じゃん……!
スン、と表情を無くした僕はもう諦めの境地だ。セレスに連れられるまま、玄関ホールに足を踏み入れた。
人が大勢いたらどうしようと不安があったものの、そこには家令がひとり立っているだけでホッとする。
おじいちゃんみたいな優しい雰囲気の、ロマンスグレーの髪を撫でつけたその人は、僕たちに向かって丁寧に頭を下げた。わぁ、丁寧に頭を下げられるのって生まれて初めてかも……
「おかえりなさいませ」
「ヒュペリオ、準備は?」
「整いましてございます」
なんの準備? と疑問に思いつつセレスについて行くと、こぢんまりとした食堂だった。こぢんまり、と表現したけど僕の住む部屋くらいの広さはある。
マホガニーのテーブルにはクリーム色のテーブルクロスが掛けられていて、中心には高そうな花瓶が置かれている。白い小さな花をつけた緑鮮やかなアレンジメントが綺麗だ。なんとなく、その花の素朴さに胸があたたかくなった。
お礼ってこういうことか。僕がこのまえ徹夜のセレスを無理やり家に連れ帰って、ご飯を食べさせたことに対してだろうけど……普段おいしいものを食べさせてもらってるのはこっちなのに律儀な人だ。
「口に合うか? 礼なら自分で作ったものを、と考えたんだが、家令に止められてな」
「ん~美味しい! ふふ、セレスが自分で作ろうと思ったの? 料理とかしたことなさそうなのに……。料理人がいるなら、仕事を奪っちゃだめでしょ」
むっとした顔のセレスがちょっと可愛い。
最初のコメントを投稿しよう!