引き込まれないようご注意ください

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ホームに、出発のチャイムが鳴り響く。 飛び起きると、まだ視界は霞んでいた。 だんだん焦点があってくると目の前に…電車。 当たり前だ。ここは駅なのだから。 そしてすぐ、酔い潰れて寝てしまっていたのを思い出した。 とたん酒に弱いと言ったのに、浴びるほど飲ませてきたあのクソ上司が頭に浮かぶ。 一瞬はらわたが煮えくり返りかけた、が。 よく考えれば、この電車で終電かもしれない。 慌てて飛び起き、ほぼ駆け込んで乗車した。 足を踏み入れた瞬間、背にした扉がしまる。 「あぶねー…」 思わず口に出してしまった。 申し訳程度、遠慮がちにあたりを見回すと。 中年サラリーマン、壁に寄りかかって眠る青年、楽しそうにスマホを覗き込む5人組のパリピ。 誰一人、こちらを見ていなかった。 少しだけ安心し、空きばかりの座席に腰掛けようとするが。 今座ったら確実に起きられない。絶対に駅員のお世話になってしまう。 ただでさえ、ふらふらなのだ。 そんな恥はかきたくないので、真正面のドア前に立つ。 とっくに動き出している電車は静かに、ゆりかごのように揺れていて。 改めて、座らなくてよかったと安堵した。 一部黄色のテープが巻かれた手摺をつかむ。 スマホを見ようか、とも思ったが、 独身だし友達ももう寝ているだろうし。 スクロールするまでもない連絡画面を見たってただ虚しくなるだけだし……。 悶々としているとまた、少しずつ睡魔が脳を蝕んでいくのがわかった。 ちょっとでも刺激を得ようと視線を上げる。 ふと、場違いな真紅の帯が目に入る。 〈()()まれないよう ご注意(ちゅうい)ください〉 その帯の上下には真っ黒なピクトグラムで、人の全身が描かれていて。 あぁ、手足とかを挟まないようにって意味なんだな、と解釈して。 さらに、視線を持ち上げると。 目が合った。 車窓に映った自分と目が合ったのではない。 目。 目なのだ。 窓の向こうに、大きな大きな目が。 暗闇の中、瞳孔の開いた、真っ黒な目が。 変に見開いた目が。 こちらを覗き込んでいた。 それは、引き込まれそうなほど綺麗で。 ありえないおかしな状況だけど、 びっくりするぐらい冷静で。 ずうっと見てたいとおもってしまった。 そらしたい。 でもむりだ。 びっくりするぐらい吐きけがした。 すうっと背筋がさむくなる。 足首がつめたくなって、かぜがとおりすぎたのにきづく。 くうきが かぜが ひきこまれていく。 じぶんも、だんだん、 あ、
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