雪の日の待ち合わせ

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『ね、別れよう。僕のせいで付き合わせてごめん』 眼鏡の地味男に付き合わせてごめん。 そう言えば彼女は青ざめた顔で俺を見上げていた。 『あ、あの……』 『あの日、待ち合わせに来なかった日。事故とかじゃなかったみたいでよかった。それじゃあね。卒業おめでとう』 もう二度と会うことはないだろう。 そう思って去ろうとしたのだけれど、遅れて怒りがやって来た。 最初から告白してくるなよ、とか。別れたいなら一言そう言えよ、とか。 これが最後になるのなら、一言ガツンと言ってやってもいいかなという気になった。 踵を返そうとした足を止め、もう一度彼女を見下ろす。 『君、すごい最低な人なんだね。次からは相手のことを知ってから付き合うようにするね。勉強になった。ありがとう』 そんな嫌味を言い置いて、彼女の前から立ち去った。 チラッと見えた彼女の友人達も青ざめていたのは滑稽だった。 俺の人生初の気持ちのない交際はそれで終わり。 大学では髪型を変え、髪色も明るい茶色に染めた。眼鏡からコンタクトに変えて、服にも気を使うようになった。一人称も「僕」から「俺」に変えた。 いわゆる大学デビューというやつだ。 告白されることもたまにあるけれど、知らない相手の告白は断るようにしている。 相手を知ってから付き合っても、まぁ別れるときは別れるけど。 交際することにトラウマはない。 だけど、雪が降っている日の待ち合わせは今でも怖くなる。
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