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ーー
俺は嫌な記憶を思い出し、駅前の植木の前で盛大なため息を吐いた。
吐いた息が白く染まる。
降っている雪は地面に着くなり水になる。この雪が積もることはないだろう。
ビニール傘に着地した雪も水になって滑り落ちてきている。
「早く来いよ……」
待ち合せの相手は恋人ではなく友人だ。
だけど、来なかったらどうしようという考えに支配される。
俺が少し早く来てしまっただけだ。
あいつは約束を破るやつじゃない。
だから来る、絶対に。
そう自分に言い聞かせる。
「おーい! 剣優! ごめん、遅くなった!」
名前を呼ばれ、声がした方を振り返る。
待ち合せの相手が傘もささずにブンブンと俺に向かって腕を振っているのが見えた。
小走りで近づいてくる友人に、ほっと息を吐き出した。
「別に、俺が早く着いただけだし」
「え、そんなに待った!?」
「いや? 10分くらい」
「うわー、マジか、ごめん! 店にでも入っててくれてよかったのに」
「別にいいよ、俺が好きでここに居ただけだし」
ほらな、ちゃんと来てくれた。
俺は傘を忘れたという友人に半分場所を譲ってやりながら、こいつの彼女へのプレゼント選びに付き合うために、ショッピングモールへ足を向けた。
了
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