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ふと揺れる爪先が何かを踏み、身体が反射的に僅か浮いた。
浮かんだ。
縄から首が外れる。結局両手は離れずじまいだったのだ。空中から崩れ落ちる少女。一体いかなる作用によるものか、物音ひとつ立てずに未だ、少女はこの世界に着地した。
カッ、と埃くさい空気が喉に流れ激しく咽せ返る。
今、自らが身を置く世界が、人間のものか、人形のものか、考えを巡らせる余裕は少女にはない。
畏い。
畏い。
畏い、畏い。
ベッドから足を踏み外した時、床に身を下ろしてからもずっと、少女が感じたのは、畏い、だった。
畏い。
畏い。
畏い、畏い。
この気持ちをどう整頓すれば良いのか、少女には全く見当もつかなかった。ただ、瞳からは止め処なく、先程まで流す事の出来なかった涙が溢れ続ける。
畏い、畏い、と少女は口に出して言ってみたがまるっきり無駄で、少女はついに嗚咽と共に床に臥せってしまった。その感情に畏怖という名前が付いている事や、その涙は安心から出たものだと理解するには、少女はあまりにも幼すぎた。
たったニ時間と十三分。泣き続けた少女は祖母と同じ種類になるのを諦めた。
人形になってしまうんだ。そう感じたが、それは少女にとって、とても簡単な事のように思えて、事実、既に何の感情も沸かなくなっていた。
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