人形少女

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 身体を消毒しなければならないという強迫観念を少女は持っていた。潔癖なのではない、汚れているのは自分。入浴時など幾ら擦ろうとも清浄に及ばない気がして皮膚がヒリヒリと痛むまで続けるのが常だった。自分が汚れているという思いが少女を強く縛り付け、自己を消毒する行為へと向かわせる。身体を綺麗にしなくてはならない。とりわけ、少女は足に対しての嫌悪感がとても強かった。汚い、穢らわしい、洗っても洗っても未だ我慢ならない、許容出来ない。それは姉への嫌悪である。自らの足を誇らしげに、老いた祖母を嘲り、瑞々しい肉体をこの世の是とする。丈の短いスカアトで露出された艶かしい足。老も若きも、遍く男を誘惑し、生殖欲求に脳髄を支配されひたすらに今を謳歌する若く醜い足。穢らわしい、見るに堪えない、思春期などというごく短い時間を己が人生の絶頂とする様な、それからの時間はおまけであるなんて、祖母を否定する様な不潔な足。もしかしたら、あと何年もすれば、少女はきっと踵の高いハイヒイルを履いて、姉のように澄ました顔で醜い町の醜い道を醜い足で、さも偉そうにサア見て御覧と闊歩するのだろう。不潔だ。穢らわしい。姉と同じ様に不潔であるという事。この足が瑞々しく、尚も伸長せしめているという事。厭だ、汚い。それがどうしても少女には堪えられなかった。清潔にしていなければならない。清潔にしなければ穢れた姉と同じになってしまう。彼女はだから努めて靴を脱ぐことはしなかったし、自分の部屋では入口で靴を脱ぎ、シャワールームの床は毎日入念に清掃をしていた。姉と同じ場所をどうしても踏みたくなかった。してみると矢張りこの感覚は潔癖というには余りにも限局的で、単に汚いというには余りにも頑ななものである。とにかく足が汚く感じて仕方がなかった。 
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