人形少女

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 省略出来ればいいのに。少女は声には出さず、口の中だけで呟いた。目を閉じて、ひとつ、ふたつ、みっつ……十まで数えたところで目を開けたら自分は皺だらけの老婆で、孫のお気に入りの椅子になっていて。あともう一度、瞬きしたら幸せな気持ちのまま人間を終えている。それが少女にとって最も好ましい未来だった。しかしそれは少女にしてみても非現実的な空想であり、頭の中でのみそっと実現させ僅かばかり自己を慰めるだけの絵空事。しかしもしもその未来が叶い、自分の人生が今迄と老婆になってからしかなかったならば、と、少女はどうしても煩悶せずにはいられない。いつだってその妄想は苦しく、悔しい。それ位なら待てるのに。今の時間と、老婆の時間。それだけだったら、神様が自分の生命に対して、そろそろおしまいにしましょう、と、働きかけるまでは続けていても良かったのに。少女と老婆だけで終わればいい。真ん中はいらない。大人になどなりたくない。人生の正午、太陽を身体一杯に浴びている時間。姉を想起するその時間帯こそが少女には最も不潔であり、かつ不要なものだと感じられた。元々、少女が愛していたのは今日の様に細く尖った月の光で、さもなければ息を吹きかけられてあっけなく消えてしまう瞬間の、困り果てた様子の蝋燭の揺らぎだけ。ずっと夜がいい。寂しさで祖母のベッドに潜り込み、頭を撫でられ会話をしながら睡る。この世で最も安寧なゆりかご。全ての痛みから解放され安らぎを得るその時間こそ少女は愛していた。
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