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順ぐりに思い出す。少女が敬愛して止まない祖母。それ以外の家族の事を。
少女は祖母以外の家族を嫌悪していた。祖母の葬式での、母親の貼り付けたような悲しい顔と、それでいて涙一つ流さない心。少女にとって母親はその瞬間から変質し、母親という容器に何か厭なものを注ぎ込んだだけものに置き換わってしまった。同様に、母親を支えながら表情もなく何か頻りにボソボソと呟く父親の言葉も少女には理解の及ばない異国の言葉に聞こえたし、祖母の死について特に何も感じる事もないようにポカンと口を開けている姉も少女にとっては人間と呼ぶに値しない、中身がからっぽの置物に見えた。ただ少女だけ、鼓動するのを止めてしまった祖母の身体に縋りイヤダイヤダと喚く。涙に歪んだ視界。泣き腫らした顔をふと上げると両親がまるで恥という様な顔で少女を見ている。進行の妨げといわんばかりに迷惑がっている。
ああ、この残酷な家族達。祖母の遺族と呼ばれているこの容器の群れは、祖母の死を悼むよりも、式典が滞りなく進む事を大事と考えているのか。ならば空っぽの容器に注がれているのはやはり心ではない。細胞の群体に血液が循環しているだけの有機的な容れ物。柔らかい容器に牛乳が注がれている様な、ごくつまらない風景の一部。なるほど、容器が振れれば内容物は揺れるだろう。この気持ち悪い容器達は、動作するから仕方なく血液が巡っているだけの存在なのだ。ならばそこに精神など宿っているはずもない。健全なる精神は健全なる肉体に宿るというのは誤りで、そもそも精神は肉体に宿るものでは無かった。目の前の容器達がその事実をまざまざと少女に突き付ける。この哀れな存在には、きっと心が宿っておらず、大切な家族の死について何思う事もなく、葬儀屋から与えられたプログラムを実行しているだけ。厳粛などという欺瞞で己の無感情に言い訳を立ているだけの偽物達。
つまり人形なんだ。と、少女は思い至った。
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