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気付いてしまった。この容器達は自分達よりも大きな何かによって発条を巻かれて動く自動人形。だからだ、だから悲しくないのだ。祖母の死を悼むのはこの場に少女だけ。途端、脳髄はその事実に支配され、急激な孤独感が少女を苛む。
厭だ、厭だ、人形達の中に取り残されてしまう。
精神の欠落した人形の群れが、豊かで温かな心を持つ祖母の遺体を自分達の都合で扱っている。なんて神経に障る光景なのだろう。赦し難い。更に言ってしまえば、そんなごく下らない家族の人形達に対して、さも大義そうに頭を下げるのも人形。やれ気丈だ立派だと誉めそやす人形。祖母の為だけに挙行されているはずの神聖な儀式に訪れた下種な弔問客の群れも含め、目に映る光景全てが、少女にとっては廃工場に集まったマネキン達の祝勝会に見えた。少なくともこの場に、人間は少女しかいない。
このままでは、祖母が廃棄されてしまう。
愕然としつつ、それでも決して祖母を奪われまいと、遺体から離れようとしない少女。やがて進行に障りが出たものか、父親の容をした人形が、少女を遺体から引き離そうと最低限の言葉で圧迫する。当然抵抗する。得体の知れぬ人形達が群れで以て、棺に梱包された祖母の身体を何処かに捨てに行こうとしているのだ。容認出来よう筈も無い。人間の存在していないこの状況こそが証明したのだ、精神は肉体に宿ってなどいないと。ならば祖母の精神は未だどこかに必ず残っている。あの優しかった祖母が少女を一人、人形達の群れの中に残して旅立つ筈などないのだ。祖母の精神はどこにも行かず、今迄と変わる事なく少女を抱きしめ、優しい言葉をかけようとしている。しかし身体を失ってしまっては、おしゃべりする事も、ザラザラの手で少女の頭を撫でる事も出来なくなってしまう。
未だ居る。祖母の精神は未だ居るのだから、どうか祖母から身体を奪わないでくれと懇願する少女。しかし人形達にその事実が理解出来る筈も無く、少女はとうとう家族を装う人形達によって式場から追放されてしまった。心無い物達によって、淡々とどこかへ運び出された祖母。姉の人形が少女を拘束し、弔問客がそれぞれの置き場に戻るまでの間、妙に狭い部屋に閉じ込め、葬式が済んでしまうまでずっと監視していた。
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