第3章 世界は変わる?

1/8
前へ
/30ページ
次へ

第3章 世界は変わる?

 目覚めてまっさきに考えることはまた同じ5月12日を迎えた、ということ。  でも今日はやらなきゃいけないことがある。  クラスの人たちと話して、悩みがあるかを見つけなければいけない。  私は昨日の武田君との練習を思い返しながら、すぅはぁすぅはぁ、と深呼吸をする。  制服に着替え、クシを手に鏡を見る。  いつも通り前髪を下ろしかけて、ちょっと迷ってから前髪をあげることにした。  普段と違う、見馴れない自分。  がんばらなきゃ。 「――おはよう」  リビングに顔を出して、お母さんに声をかける。 「おはよう。……あら、髪型かえたのね」 「うん……。どう、かな」  私は落ち着かない気持ちで、毛先を指でいじる。 「いいわ。いつもの髪型より、そっちの方が栞には似合ってるわ」 「ありがと。ね、お母さん、今日大切な商談があるんでしょ。がんばって」 「あら、その話した? 頑張るわ」 「今日は、天気もいいし、きっとうまくいくよ」 「ふふ、そうね」  私がご飯を食べていると、視線を感じた。 「お母さん、どうかした? 私の顔をじろじろ見て……。なにかついてる?」 「もしかして、好きな人ができた?」 「えっ」  なぜか、一瞬武田君のことが頭をよぎった。 「へえ。栞も、隅に置けないんだから。誰? クラスの子? うちに連れてきなさいよ~」 「べ、別に好きな人とか関係ないから……っ」 「だって髪型をいきなり変えるなんて、何もないのにそんなことをしないでしょ?」 「別に深い意味とかないし。ちょ、ちょっとしたイメチェンのつもり……」 「ま、そういうことにしておこっか。告白する時には絶対、お母さんに教えてね。アドバイスしてあげるからっ」 「も、もう、お母さん!」 「ふふ」 「そろそろ出なくて大丈夫なの? 遅れて、商談に失敗しても知らないからねっ」 「それじゃ、いってきますっ!」 「いってらっしゃい」  手を振って、お母さんを見送った。  もうお母さんってば、悪ノリしすぎ。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加