第3章 世界は変わる?

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 私はドキドキしながら登校する。  駐輪場に自転車を駐めて校舎に向かうと、ますます緊張感が高まった。  まず1番最初に会うのが、近藤さん。  近藤さんは、玄関で一体何をしているんだろう。 「っ」  近藤さんと目があった。  いつもの私ならそれだけで俯いていたと思う。実際、俯きかけたけど、武田君の言葉を思い出して顔を上げる。  ――おはよう、沢海さん。  ――おはよう、近藤さん。  上履きに履き替えながら、私は頭の中で挨拶のイメージトレーニングをすると、近藤さんを見る。 「近藤さん、お、おはよ……」  まさか私から話しかけられると思っていなかったのか、近藤さんはびっくりしたような顔をする。  近藤さんの目を見ながら、挨拶できた。 「おはよう」  近藤さんはちょっとびっくりした後、笑顔を見せながらあいさつを返してくれる。  当たり前のことなのに、とても嬉しかった。  私は満足感を覚えながら下駄箱から離れかけ、しばらく迷ってから振り返る。  近藤さんは心なしそわそわしているみたい。 「近藤さん」 「何?」 「……ど、どうかしたの? 教室に、行かないの?」 「教室? あ、う、うん……そうだね……えっと、人を待ってるから……」 「そうなんだ。それじゃ、また教室で」 「あ、待って、近藤さん。髪型、かえたんだね。似合ってるよ?」 「…ありがとう」  私は胸の奧がくすぐったくなるのを意識しながら下駄箱を離れて、しばらく歩いてから、柱に背中をもたれた。  心臓がドキドキする。  大きく深呼吸を繰り返す。  自然に話せたと思う……。近藤さんも普通に答えてくれたし。  鼓動が落ち着くのを待ってから図書室に向かえば、いつもの光景がそこにはある。  本の整理をしている図書委員の人、そして積み上げられた本。  これまでの私から変わらなきゃ。  そういう気持ちで、私は図書委員の人に近づく。 「何ですか……?」 「本、崩れそうになってるので」  私は不安定に積まれている本の山を2つに分ける。 「ありがとうございます」 「も、もし良かったら……手伝いましょうか?」 「でもお忙しいんじゃ……」 「暇なので……」 「それじゃあ、お願いできますか?」  私は2つに分けた山のうちの1つを抱えると、棚へ戻していく。  と、図書委員の人が手を止めて、とある本に目を落としていることに気付く。 「……どうしたんですか?」  おそるおそるたずねると、図書委員の人ははっとした顔になる。 「あ、これ……。小学校の時に読んでて。懐かしいなって思って……」  本の題名は、宝島。海外の翻訳小説。  少年が海賊たちを相手に、宝物を手に入れるために競い合うというストーリー。 「私も大好きです、それ。すごくワワクして……。海賊はちょっと怖かったですけど」 「ふふ、分かります」  図書委員の人が笑うところをはじめて見た。もう何度も今日を繰り返してるのに。  これも、私が行動したから?  その時、HRを知らせるチャイムが鳴った。 「もう時間ですね」 「手伝っていただいてありがとうございます。教室に戻って下さい」 「でも」 「もうすぐ終わるので、最後までやっていきますから」 「分かりました。――お仕事中なのに、話しかけちゃってごめんなさい」 「いいえ。楽しかったです。あの、また良かったら、本の話をしませんか……?」 「はい、是非っ」  私は頭を下げて図書室を出た。  教室に帰る道すがら、私は胸の温かさを感じていた。  こんな風に何気なく会話することが楽しかったなんて、知らなかった。 「……自分から動いたら、世界は変わる」  私は、武田君から言われた言葉を、口の中で呟いた
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