第1章 5月12日

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「――……」  目を開けると、白い天井と明かりのついていない電灯が見えた。  手探りでスマホを握り、目の前にかざして時刻を確認する――午前6時。  すっごい寝ちゃった……。  寝たのが昨日の夕方くらいだから、12時間は寝ちゃったみたい。  夕飯も食べてないし、宿題もやってない。 「もう……」  嫌になると思いながらベッドから抜け出して、机に向かう。  まだ頭は完全に働いてないけど、しょうがない。  鞄から数学Iの教科書とノートを取り出す。 「……あれ?」  昨日、ノートに書いたはずの公式がどこにもなかった。  まさか誰かのノートを間違えて持って来ちゃったのかなとノートをめくってみるけど、確かに自分の文字。 「うーあー……もー、いや……」  自分のボケ具合に頭を抱えてしまう。  きっと眠気のせいだ。  そのせいで、ちゃんと板書したと思い込んでしまったのかもしれない。  とにかく、やらなきゃいけない場所は分かっているからやろう。  参考書を引っ張り出して、どうにかこうにか宿題部分を終わらせて一息つくと、ぐぅ、とお腹が鳴った。  制服に着替えてリビングへ向かうと、スーツ姿の母が昨日と同じように立ったまま唐揚げやおにぎりを食べていた。 「お母さん、おはよう」 「おはよう。早いのね」 「うん。お母さん今日も早いんだ。昨日の商談はどうだった? うまくいった?」  お母さんはきょとんとした。 「あれ、商談のこと、話してたっけ?」 「お母さん、ぼけないでよ。昨日教えてくれたでしょ」 「うーん……」 「? お母さん、どうしたの?」 「栞、勘違いしてるわよ。だって商談は今日だし」 「今日も商談? 昨日の商談とは別の?」 「昨日は商談なかったわよ。今日が商談って……いけないっ。寝坊してたんだった! お母さん、もう行くからねっ!」 「あ、うん……。いってらっしゃい……」 「いってきますっ! 今日も1日、学校を楽しんでねっ!」  お母さんは慌ただしく家を出て行った。  変なの……。  忙しいから、きっとお母さんが勘違いしたんだ。  私は食事を終えると、家を出た。  私は校門を抜けると駐輪場に自転車を止め、校舎に入った。  下駄箱にいる近藤さんは昨日の朝みたいにうろうろしたり、柱にもたれかかったりと、落ち着かない様子。 「沢海さん、おはよう」 「……お、おはよ……」  私もいつも通り、近藤さんの目を見られないままぼそっと挨拶を返す。  昨日もそうだったけど、何か心配ごとでもあるのかな。  私は気になりつつも結局、声なんてかけられないし、図書室に向かった。  昨日の図書委員の人と会いませんように……。  昨日のこともあってちょっと気まずいけど、かと言って、朝のHRまで時間を潰せる場所もないので図書室に入った。  あ……。  すると、昨日と同じ図書委員の人が棚の整理をしていた。  気まずさのあまり、目を伏せたまま適当に本を取って、席に着く。  図書委員の人は、特別、私を見る素振りもせず、黙々と本の整理をしている。  かたわらに積み上げていた本がアンバランスで、今にも崩れそう。  その光景にすごい既視感があった。  そうこうするうちに、積み上げた本が崩れた。 「あっ」  図書委員の人と目が合った。  昨日と同じ。  勢い良く席を立った私は、図書室を飛び出してしまう。  ご、ごめんなさい……。  心の中で謝ることしかできなかった。
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