第1章 5月12日

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 次の日も、スマホのアラームが鳴るよりも早く目が覚めた。  手探りでスマホを手に取って画面を見るなり、私は目を疑った。  スマホの画面に表示された日付は、5月12日。 「うそっ!」  自分でもびっくりするくらい大きな声が出てしまう。  スマホの調子が悪いかもと、ネットで日付を検索してみるけど、やっぱり5月12日だった。  どうなってるの? 意味が分からない。  ベッドから抜け出してリビングをのぞくと、お母さんが立ったまま食事をしていた。 「ん、栞、おはよう。どうしたの。慌てて……」 「お母さん、今日って何日?」 「今日は……5月12日よ」 「本当に!?」  お母さんは自分のスマホを見せてくれる。たしかに5月12日と表示されていた。 「……ほ、本当だ。ね、お母さん、昨日の商談はどうだった?」  私は声の震えを精一杯こらえながら、尋ねた。 「商談? その話、したっけ? でも商談は今日よ」 「……っ」 「ちょ、ちょっと、栞!?」  お母さんの呼びかけなんてまともに耳に入らない。  私は自分の部屋に飛び込むと、学生鞄をひっくり返して中身を床にぶちまけると、数学ノートをめくった。 「……ど、どうして?」  昨日たしかに書いたはずの内容が、綺麗さっぱり消えていた。  数学だけじゃない。他の教科も同じ。  どうして今日も、5月12日なんだろう。  悩んでると、ノックの音がした。  扉を開けると、お母さんが心配そうな顔で入ってくるなり、私のおでこに右手を添えた。 「……うーん。熱はないみたいね」  どうしたらいいんだろう。お母さんに昨日も5月12日だったって言っても、理解してもらえないだろうし。 「だ、大丈夫だから……」 「本当に? 顔色が悪いけど……」 「私のことは大丈夫。お母さんは大事な商談があるんでしょ。出かけていいよ」 「でも……」 「心配しないで。ちょっと寝ぼけてるだけだから」 「そ、そう? 分かったわ……。いってきます。何かあったらすぐに連絡するのよ?」 「分かった。いってらっしゃい」  手を振って、お母さんを見送った。
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