本当にそんなんで勝負する気ですか、先輩?

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 陸上部の青春の舞台である●●県立鹿庭羽(しかばね)高等学校のグランドはゾンビ化した学生やら先生やらでワラワラとあふれかえっている。  SFやホラー映画の王道パターンだと、ゾンビに追われたり、死亡フラグが立ってしまった仲間がやられたり、仲間を助けるために自己犠牲になる親友がいたり、ちょっとしたロマンスもあったり。そういうドラマが生まれるはず。  それくらいありきたりで手垢のついたシチュエーションではあるものの、いざ自分がその場面に出くわすと意外にもやれることがない。と、佐々木は思った。  佐藤と吉田がモブキャラなのか、重要人物なのか、それとも自分がモブキャラなのかもよくわからない。  佐々木はツーブロックのマンバン。他のふたりに比べたら主人公要素がないでもない。東京●ベンジャー●しかり、呪術●戦しかり。ん? どちらも主人公ではない?  こんな時は「人生の主役は君たちです! 君たち自分自身なんです!」なんて言葉を思い出す。  佐々木たちのクラス―――2年B組―――の担任である神 源一郎(じん げんいちろう)先生(26才独身、名前のいかついイメージには似合わず眼鏡、色白で猫背。担当教科は国語。学生時代の専門はインド哲学)が最初のホームルームで自己紹介したときに発した言葉である。  そんな彼も今となってはゾンビの群れに仲間入りしているため、頼ることはできない。 「やっぱりさ。ゾンビに噛まれたらゾンビ化するのかな?」と、佐藤。 「そうなんじゃね? あ! あそこ。3年の星宮すみれ先輩だ! 読者モデルの。ゾンビ化しちゃってるじゃん! もったいねぇなぁ! 俺、星宮先輩になら噛まれてもいいかも。いや、むしろ噛まれたい!」と、吉田。  この会話の流れからするとこいつらはモブだな。緊張感がない。次のシーンあたりでゾンビに喰われるパターンだ。と、佐々木は根拠のない確信を得る。  しかし佐々木は知らないのだ。  自分たちの運命が誰かさんの指先ひとつで決まっているということを。  こうしている間にもこの妄想癖のある誰かさんは、なんの考えもなく―――まだオチも考えていない。推敲もしない可能性がある―――思いつくままにキーボードをたたいているのだ。  彼らの恐怖はこれから―――なんの脈絡もなく―――始まるといっても過言ではないだろう。
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